2013年5月14日火曜日

レイクパウエル 17 砂漠の渓谷に侵入!別世界が広がった


30前後のカップルが僕らに追いつき、彼らも上陸した。彼らの船は「シットオントップ」と呼ばれサーフボードの上に座席があるタイプの船だった。日本では沖縄などの南国で使われる事が多い。このパウエル湖も真夏は40度を越える砂漠の中だ。夏は快適そうだが、10月に使用するにはちょっと寒そうである。軽く挨拶だけして僕らはキャニオンの奥に向かって歩き始めた。
水面から砂地に変わった谷底を歩く。いじけた低い植物が時折砂地を張っている。近づいて見ると鋭い刺がある。砂漠の植物のほとんどは攻撃的な形態をしている。乾燥した空気と明らかに栄養に乏しい大地には極端に生命の影が薄い。生命は他の生命を犠牲にすることなしに生きることは出来ない。他の生命から自らの命を守るために攻撃的にならざるえないのかもしれない。以上の理由から僕はベジタリアンにはなれない、もちろんベジタリアンを否定するつもりはない。それぞれ自分の信仰を信じて生きていけばいいと思いう。
両側にそそり立つ崖に触っるとざらついた砂岩だ。爪でひっかくと簡単に傷がつく。渓谷を奥に歩くにつれて、目線の高さのに落書きが目立つ。一番多いのは名前と日付だ。カップルの名前が圧倒的に多い。ハートマーク付きの記念書き込みは結構痛い。他に盛り上がれる記念碑はないのだろうか。どうせならパスルやクイズを書き込んでくれたほうがまだマシだ。バカを宣伝したい奴らの広告を見ながら更に奥を目指す。
そろそろ帰ろうと言い出したのはカミさんだった。日が高いうちに帰るべきだと主張。この谷を遡って行けばアンテロープキャニオンの中でも有名なコークスクリューに到達する。もっと奥まで進みたかったが、カミさんの考えに同意して引き返すことにする。
バックカントリーでの遭難事故の被害者は圧倒的に男性が多い。男性にはプライドという男性を男性たらしめしていると同時にくだらないちっぽけな感情があり、それが予想を越えて最悪の事態を引き起こすことがある。バックカントリーに入ると僕は女性の意見を非常に尊重することにしている。それがたとえバックカントリーの知識がない人の意見だとしても女性の危機に感する感覚は男性よりも優れていいるのではないかと思う。一般的に男性に比べて女性の方が「知識」に乏しい。一方男性には「知識」マニアが多い。子供でも男の子は新幹線の駅を全て暗記したりする。「知識」は男性を雄弁な自信家に育て上げる。しかし、平均寿命は女性のほうが圧倒的に高い。女性の方が生への感覚が高いような気がする。反論も有ると思うが、僕はその意見に反対するつもりは全くない。なんの根拠もない。完全に僕の感覚でそう思うだけだ。
カヌーに戻り、渓谷を漕ぎ戻る。来た時と同じ美しい風景が僕らを包む。両岸の高い崖とその上に広がる完全なる青が現れては後方に進む。順調にキャンプ地までカヌー先端は水面を切り開いていった。
風が強くなっきた。キャニオンの出口まではあと1キロほどだ。蛇行するキャニオンを漕ぎ進めとあるカーブを曲がると風が強くなって来た。完全な向かい風だ。ここからはあとカーブを3つほど曲がりパウエル湖の本体に出れば20分ほどでキャンプ地に帰れるはずだ。距離にして1キロ無いはずだ。
風にバウを向けて力強く漕ぐ。カヌーにとって風は大きな抵抗になる。キャンプ道具を積んでいないため船体が軽いのでさらに影響が大きい。
風が次第に強くなっていく。湖面には細かいさざ波が立ち、カヌーを風に向けて真っ直ぐ向けるのが難しくなってくる。パドリングをスターンプライからカナディアンストロークに変えて推進力を加える。
風が更に強くなる。さざ波が高い三角波に変わりカヌーの船首を一定方向をキープするのが困難になって来た。それどころかカヌーは一切前に進まない。
風は力を増し水面の水を飛ばし始めた。風に飛ばされた水が顔を刺す。バウにいる嫁はもっと水を浴びているはずだ。
「お前ら、カヌーの中にしゃがめ!」
半ば叫び声に近い調子で子供達の頭を船の中に入れる。少しでも風の抵抗を無くさなければカヌーを操作出来ない。カヌーを風に対して横にしたら最後、転覆も免れないほどの大風になって来た。風が湖面の水を拾い上げ空中に飛沫を飛ばしそれが僕らに襲いかかる。カヌーは左右に翻弄され時折壁に近づく。壁に押し付けれられたらどうなるか分からない。僕はカヌーを水路の真ん中にキープして向かい風に耐えた。
これは絶対前に進めない。僕は両岸を高い崖に囲まれたキャニオンの中で、カヌーを転覆させないようシングルパドルのフィン水中で力いっぱい掻き回した。

2013年4月27日土曜日

レイクパウエル 16 砂漠の渓谷に侵入!別世界が広がった


予備のパドルや昼食など必要なのもをカヌーに積み込みキャンプを出発する。天気は上々風一つない晴天だ。アンテロープキャニオンの入り口まではたったの20分。入り口は昨日と変わらず高い崖に挟まれた狭い水路になっていた。水路に入ると両側の壁が精神を圧迫する。赤茶けた岩肌と青空のコントラストが美しい。
一般的に有名なアンテロープキャニオンはパウエル湖のはるか上流に位置している。コークスクリューと呼ばれる渓谷は、沢の水が何千年もの月日をかけて複雑な蛇行した渓谷を作り出している。すでに谷の底の水は干上がり砂地である。渓谷は狭く、正午前後にだけ太陽の光が渓谷内を照らし美しい砂岩の地層を照らし出す。写真家には特に有名なのでガイドブックやウェブの旅行記などで目にしたことがある人も多いだろう。
僕らが侵入した渓谷はその有名な景勝地から数キロ下流だ。幅は広いところで20メートル。観光バス2台分の広さあるが、切り立った崖に囲まれているので上陸出来る場所は非常に限られている。
驚愕すべきは水路の両側の崖の高さだ。正確には分からないが少なくとも20メートル以上の完全に、完全に!垂直に切り立った赤茶けた崖が空に向かって伸びていた。砂漠の中の狭く切り取られた青空はまるで天の川だ。高い崖に囲まれた水路はその幅を広くそして時には圧迫感を感じるほど狭く幅を変えてカヌーの行き先に現れる。

こういう場所に来ると感動してばかりはいられない。両側は完全に切り立った崖だ。船がひっくり返ったら上陸する場所はほとんどない。それでも水際には時折人が数人立てる岩棚がある。岩棚がある場所をしっかり頭に入れながらカヌーを進める。前を漕ぐ嫁はたぶん僕がこんなに神経を研ぎ澄まして漕いでいる事は全く知らないだろう。雌は日常生活を守り、雄は狩りをして日常生活を支え家族の安全を確保する。生物としてのメスとオスの役割は違う事を理解すれば大抵の夫婦げんかは無くなるのではないだろうか。日常離れした景色の中で日常生活を考える。そして子供達は今目の前にある景色が日常だ。初めて出会う景色が日常な幼児達はのんきに船底でお絵かきを楽しんでいた。先ほど苦労して書いた景色の描写など全く関係のない世界で楽しんでいる。
それにしても美しい。大人たちだけで人間が作り得ない自然の建造物を静かに眺めながら静かな水面をカヌーの舳先が切り開いて水面の静寂をかき乱していく。
目の前に現れる新しい景色がカヌー後方に流れて行く。流れ進んでいるのは僕らだが、両側の崖が後方に流れて行くように感じる。静かな世界で動いているのは僕らだけのように感じた。
2時間ほどカヌーを進めるとパドルが川底に触れた。川底に触れたパドルの先からは水中に土煙があがり水面下を一気に盲目の世界に変えた。しばらくクリアな水を泥水に変えながらパドルを続けるとカヌーの船底が湖底を削り前に進まなくなった。
カヌーで進む事を諦めた僕らはためらいながらヒザ下まである水に両足を浸し、軽くなったが子供達を載せたままのカヌーを完全に水が無くなる砂地まで引き上げた。キャンプ道具を積んでいないカヌーは素直に砂地に乗り上げ、子供達が上陸出来る深さまで引き上がる事が出来た。
地上に降りた僕らはまだ崖に囲まれた狭い空の下にいた。今までの風景と違う点は周りに水がない事、僕ら自身の足で地上に立っている事、その2点だけだった。上陸地点から数分も歩かないうちに谷底には植物が多い茂っていた。遠い昔に水が無くなった事を示している。
アメリカの水不足は深刻だ。このレイクパウエルが作られてから一度もこの湖が満水になった事はない。レイクパウエルから流れ出る水はコロラド川となりグランドキャニオンを通りメキシコ湾に注ぐはずだが、メキシコで農業用水に全ての水を吸い取られ、最終的にはドブ川のようになり海まで到達していない。グーグルの地図で見れば分かるが、かつてはコロラド川が大量の水をメキシコ湾まで注いでいた。アメリカの人口増加と近代化が水の流れを変えてしまったのか。皮肉にもアメリカを代表する河川「コロラド川」を見ると誰にでも分かる。

2013年3月22日金曜日

レイクパウエル 15 砂漠の渓谷に侵入!別世界が広がった

夕日が沈むまで岩の上でビールを飲む。思考が薄くなり、心地良い気分で夕日が岩の間に沈んでいく様子を眺める。沈んだ夕日の光が岩の間から漏れる頃になると自分の頭上を越えて反対側は黒に近いブルーが広がる。濃いブルーの中には星がまたたき、星の数が徐々に増えていく。星が空全体を覆う頃には明日を目指す太陽は完全にその光を失い、闇に星が繰り出す光の点が隙間なく空を覆い尽くす。
アルコールに侵された頭脳で宇宙を感じたところでテントに戻る。テントは本を読む嫁のヘッドランプで弱い灯台になっていた。その弱い光を頼りにテントのファスナーを開けて一言も言葉を発せず寝袋で闇の星を頭に浮かべて眠りに入った。
毎日やってくる朝を迎える。 相変わらずテントが太陽に暖められて体温上昇にて目が覚める。子供達は汗をびっしょりかいているのに意地になっているかのように目を覚まさない。テントの入口のファスナーを開けると一気に新しく冷たい空気がテント内に流れ込み心地良い。
いつものように嫁のコーヒーの為にお湯を沸かす。子供達の朝食を作る。自分の腹に食料を入れて心身共に落ち着く。キャンプ生活に慣れると一定のリズムが出来る。まるで高校時代学校に行く平日の朝のように朝起きてから学校に着くまでのルーティーンのように身体に一連の作業が身についてくる。
朝の儀式を終え、ジリジリと刺す太陽の元で子供達と遊ぶ。子供達と充実した時間を過ごした・・・なんて感じることは僕には絶対にない。いつも仕方なく遊ぶ。壮大な景色に見とれてゆっくり景色を眺めて時を過ごしたい。太陽で暖められた間もなく正午の暖められた空気に触れて誰にも邪魔されずに長編小説を読みたい。午後の灼熱の太陽の下、適当な高さの崖を見つけて思い切り冷たい湖面に飛び込んでみたい。やりたいことはいっぱいあるが子供達は僕に執拗にからんでくる。仕方なしに全て諦め子供達の相手をする。何度も何度も同じギャグをやらされ心からうんざりする。
思い返せば、長女が6ヶ月を迎えた頃には夫婦一緒に座って食事をした記憶がない。長女は起きている間は立って抱いていないと泣き続ける赤ちゃんだった。今思い返すとあの苦労も良い想い出だが当時は本当に大変だった。大変だったが今思い返せば本当に心から懐かしい。そんな経験があるから今でも仕方なく心底自分のやりたいことを諦め自分の子供と遊ぶ。気の長い期待が将来最高の楽しみに変わるのを楽しむセンスは20代の頃には絶対なかった感覚である。
子供達のしつこい要求をいい加減振り切り早めの昼食を済ませる。アンテロープキャニオンに向けて出発だ。


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2013年2月28日木曜日

レイクパウエル 14 砂漠の渓谷に侵入!別世界が広がった


ボートランプにある小さな桟橋にはもう一台の車が停まっていた。若い男性が車からカヤックを下ろしていたので声をかけてみた。
「こんにちは。どちらまで?」

「こんにちは、僕らは東にある入江を目指します。これから2泊だ。楽しみですね。」
「僕らは逆の方向へ一泊だよ。お互い楽しみましょう。」
彼らは3人パーティーだ。大量の荷物を車から下ろし、カヤックに荷物をパズルのように考えながら積み込ん積み込んでいた。やはり荷物のハンドリングは圧倒的にカヤックよりもカヌーの方が楽である。
風の全くない青空が広がってる。夕方近い午後の太陽が砂漠の赤い岩肌と湖の水面を強烈に照らす。
照り返した光線が激しく肌を刺す。ユキヨは奇妙なぐらいつばのお大きな帽子を被り、バンダナで顔を覆っている。このままアメリカのコンビニに入れば間違い無く即銃殺されるであろう。
それでも砂漠の太陽対策はこれぐらいやらないと数時間で真っ黒だ。女性にはぜひ日焼けに気を使ってほしい。
穏やかな水面を切り裂くように進む。岸からなるべく離れないようにカヌーを進める。対岸までは約1キロ。レイクパウエル全体から見れば湖の幅は非常に狭い。転覆しても、子供達を岸まで着ける自信はあるが、最大の安全策を取る。
岸際を漕ぐと浅瀬を通過する。気をつけないとカヌーの底が岩に乗り上げるぐらい浅くなっている場所がある。軽いカヌーなので乗りあげても大した事にはならないので気にせず岸に近い場所を漕ぐ。
水深が浅い場所を通過する度に水の色が緑色に変化し、水中の地形がグラデーションのように水の色を変化させる。そんな水面下の劇場に見とれながらカヌーを進める。
「おい、お前ら。水の中を見てみろ。きれいだぞ。」
子供達に声をかける。相変わらず子供の反応は少ない。子供にとって水面の色の変化よりもテレビの中のアニメの方が刺激が強く感動的だ。
よく考えれば当たり前の理論を親は理解せず子供に大人の価値感を押し付ける。自然が素晴らしくテレビが良くない理由は誰が創りだした常識か。
しかしながら当然僕の感情もエゴに走りイライラしてしまう。この際この感情は無視しよう。僕ら夫婦が楽しめればそれでいいではないか。親がハッピーなら子供がハッピーが我が家の持論である。僕らは十分感動しながらカヌーを進めた。
途中、アンテロープキャニオン行きの観光船とすれ違う。観光船には数人の客が乗っていた。手をふると皆笑顔で手を振り返してくれた。観光地は基本的にほがらかムードでいい。
1時間ほどでアンテロープキャニオンの入り口に着く。入り口の幅は20メートルほど。ガイドブックを見るとキャニオンの入り口付近にはいくつもキャンプ可能な場所が記してある。キャニオンに入ると両側は5メートルほどの崖が続く。上陸出来そうな場所を探してゆっくり漕ぐが、全く上陸できそうな場所は見当たらない。
キャニオンを30分進んだところでガイドブックを改めて確認すると既にキャンプ可能な印がある場所を数カ所過ぎてしまっていた。
前回のトリップでもガイドブックと湖岸線が全く変わっていたのを思い出した。かつて上陸可能だった場所も湖の水位が下がりキャンプ可能地点ははるか崖の上になってしまったようだ。
気がついた時には日没が近づいていた。僕らはアンテロープキャニオンから出るとキャニオン入り口近くに上陸出来る場所を見つけテントを張った。
キャンプ地は上陸してから数分岩のスロープを登った場所に設営した。周りを岩に囲まれた砂漠で実に夕日が美しい場所だった。キッチンを水際に作り簡単な夕食を済ませて子供達の世話を妻に任せ、夕日のよく見える岩の上で本を読みながらビールの栓を抜いた。最高のひとときだった。明日の度ではひどい目に遭うことも知らずに・・・・

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2013年2月6日水曜日

レイクパウエル 13 砂漠の渓谷に侵入!別世界が広がった


太陽がテントを照らす前に目が冷めた。テントから出るとキーンとした空気の中、クラークが既にワンバーナーでお湯を沸かしてコーヒーを入れていた。

砂漠の朝はテントから出た瞬間、身体全体をリフレッシュさせてくれる。海から千キロ以上離れた乾燥した大地では一日の気温差が半端ではない。朝に10度以下だった気温が午後の2時を過ぎると30度近く上がることは珍しくない。
砂漠の夜明けでは頭から熱が放射され、寝袋の中でモヤモヤしていた脳が叩き起こされる。太陽が岩の間から東の岩山を照らし始めると、あっという間に僕の足元まで光がやってくる。足元を照らした太陽は長く伸びた僕の影を映し出し、一気に身体を暖める。そこにクラークの入れたインスタントコーヒーを喉に流し込むと今日一日の始まりだ。
キャンプ場全体が目覚め出した。朝早く起きだしたキャンパー達はそそくさと荷物をまとめて車に乗り込みキャンプ場を去って行く。ほぼ満員のキャンプ場の人々は一体どこを目指しているのだろうか。答えはキャンプ場を出て行く車のダッシュボードにあった。
ダッシュボードには何か許可証のようなものが置いてある。よく見れば「ザ・ウェーブ」への許可書である。このキャンプ場の人気は「ザ・ウェーブ」に支えられていたようだ。
キャンプ道具をまとめてハイウェイに向けてダートロードを走ると沢山車が停まっているトレイルヘッドがあった。トレイルヘッドに駐車している車のダッシュボードにはキャンプ場で見かけた許可書が置いてある。どうやらここが「ザ・ウェーブ」入り口らしい。すでに駐車場には人気がなかった。
クラーク宅に着く。今日はまた、レイクパウエルのバックカントリートリップに出発する日である。クラーク宅でシャワーを浴びてゆっくりする。

今日は休日だがクラークの孫達は忙しい。小学6年生ぐらいの年になる男の子のブライセンは毎週末サッカーの試合だ。下の子エリザベスはダンス教室。送り迎えするクラークも実に忙しい。せっかくのゴツイ日産トラックもファミリーカー状態である。奥さんとはすでに離婚している子供達の父親は救急救命士で現在ナバホ族の村に出張中で帰って来ない。クラーク夫妻はこの家に無くてはならない存在である。
キャンプ生活が続いたせいか、クラーク宅で思わずゆっくりしてしまった。僕はブライセンとスケートボードを近所の教会の巨大な駐車場で楽しみ、子供達はブライセン兄妹の小さい頃のおもちゃや本を漁っていた。またカヌーに積み込む荷物が増えること間違いなしである。僕は心から巨大なぬいぐるみなどが出てこない事を願った。
バックカントリーに向けて出発である。すでに午後3時。のんびりはいつもの通りだが、真面目なアウトドアマンには怒られる時間だ。今回のトリップはまた2泊3日。レイクパウエルのアンテロープポイントという場所から漕ぎ出す。アンテロープポイントはかの有名なアンテロープ・キャニオンがレイクパウエルに続く渓谷の近くにある。
アンテロープキャニオンポイントは人気が無くひっそりとしていた。ボートをおろすランプの入り口に国立公園レンジャーの車が停まっていた。
僕らがボートランプに近づくとレンジャーの車から若いオフィサーが出てきた。
「こんにちはどちらまでですか?」
「ここから2泊カヌーで漕ぎだしてキャンプをする予定だ。」
実は明日にはこのボートランプは閉鎖になります。きょう漕ぎだしてもいいんですが、帰って来る時には水際まで車は入れません。」
「了解!教えてくれてありがとう。」
本来はクルーザーなどを下ろすためにある、水面下まで続くコンクリートの傾斜した道を水際まで車を進めた。
カッコ悪いファミリーバンから日焼けで変色した赤いカヌーを降ろし、水面に浮かべた。かみさんは子供達にライフジャケットを付けて、細々とした荷物を車から降ろす。僕はカミさんが下ろした荷物をカヌーに積み込む。
コクピット席と子供達の乗るスペースを快適にしつらえると出発の準備はOKだ。カミさんの本OK、俺の酒OK、子供たちのおもちゃOK!バケーションは残り少ない。一泊二日のウィルダネスへの旅の始まりだ。

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2013年1月30日水曜日

レイクパウエル 12 砂漠の渓谷に侵入!別世界が広がった


ハイウェイを30分ほど走るとクラークのトラックはダートロードに入った。僕らのファミリーバンはダートの道はちょっとつらい。それでもクラークの日産トラックにかろうじてついて行った。
ダートロードは岩山に囲まれた砂漠地帯をどこまでも続いている。クラークのトラックは乾いた大地の砂煙をもうもうと上げて進んで行く。彼のトラックに近づき過ぎると砂煙で全く前が見えなくなる。時折、対向車とすれ違うと砂煙が視界を完全に遮る。僕はブレーキを踏んでスピードを十分落として視界が戻るまでやり過ごした。その間にクラークのトラックははるか彼方にすっ飛んでいる。地味にスピードを上げてなんとか追いつく。その繰り返しで結構疲れる運転である。

途中ハイキングコースのトレイルヘッドをいくつも見かける。それぞれ数台の車がとまっていた。結構ハイキングにはポピュラーな場所のようである。
元気よく走っていたクラークのトラックがスピードを落とし小道に入っていった。ついて行くとそこはキャンプ場だった。トイレ以外の施設はないが、各キャンプサイトには屋根のついた吾妻屋とピクニックテーブル、そして焚き火が出来るファイヤーピットが設置されている。それぞれのキャンプサイトはお互い干渉しない程度に離れており、僕が泊まった事のあるキャンプサイトの中ではトップクラスの場所だった。
「思ったより遠くて悪かったね。30分ぐらいで着くと思ったんだけど。昔来た時にはそれぐらいで着くと思ったんだけど。ごめんごめん。」
時計を見ると既に5時近い。話を聞けば現在は既に40歳を過ぎたタバーンを連れてきたのが最後らしい。それでは覚えていなくて当然だ。
「素晴らしいキャンプ場だろう。しかも無料!」
アメリカには無料のキャンプ場が多い。無料キャンプ場のガイドブックが発売されているぐらいである。大抵の無料キャンプ場は管理されていること無くビール瓶やタバコの吸殻が散乱しているような場所多いのだが、ここは素晴らしく手入れが行き届いていた。
キャンプサイトを決めてクラークと周辺を散歩する。
「健司はアリゾナトレイルって知っているか?かなり有名だから健司みたいなリサーチ好きな奴は誰でも知っているはずだ。何?知らない?アリゾナからメキシコまで伸びているトレイルだ。多分世界的に有名なはずだ。僕とエミリーはこのアリゾナトレイルの数マイルを作ったんだ。スコップを持ってね、ボランティアで・・・・」
残念ながら僕はアリゾナトレイルの存在を知らなかった。後で知った事だがかなり有名なトレイルだ。
太陽が沈む前にファイヤーピットに薪を入れて火をつける。大きな木が新聞紙一枚で簡単に本格的に燃え上がる。
完全に日が沈むと焚き火を囲んで話が盛り上がる。クラークも珍しくビールに手をだした。一年でアルコールを飲むのは数回らしい。久々のアルコールでクラークの話は盛り上がる。以前に聞いたことのあるストーリーが再び語られる。僕はそれを聞いても面倒な気分にはならなかった。初めて聞くストーリーのようにドキドキしながらクラークの話を楽しんだ。
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2013年1月20日日曜日

レイクパウエル 11 砂漠の渓谷に侵入!別世界が広がった


クラークは携帯電話から大きく目を離して電話をかけ始めた。老眼にはスマートフォンでも文字が小さ過ぎるようだ。
「ウェーブって知っているか?うんうんそうか、それじゃ」
クラークは数カ所に電話をしたが、ウェエーブの情報を持っている人はいなかったようだ。世界的に有名な場所だと信じていた僕にとっては驚きの事実だった。
玄関から突然大男がクラークの家に入ってきた。正確にはクラークの息子の家だ。玄関から入ってきた男はクラークの息子、タバーンの親友だった。
「ウェーブって聞いたことあるか?」
クラークはその大男にそう聞いた。
「おお、知っているよ。知り合いのフォトグラファーが写真を取りに行ってたよ。人数制限のある場所だろ。入り口はとくにゲートがあるわけじゃないようだ。俺の友達が迷ったふりしてウェーブに入り込んだら公園のオフィサーに捕まったらしい。そいつは知らなかったの一点張りで難を逃れたらしい。」
やっとウェーブを知る男が登場。日本で超有名は世界で有名とは限らないので注意。それにしても地元の奴らがほとんど知らないと思ってはいなかった。
クラークはかなり面目なさそうだった。ペイジには10年以上住んでいたから何でも俺に聞け、と豪語していたのだからそれはそうであろう。
「どうやらウェーブは日本のマスコミが勝手に持ち上げたんだろうね。日本のマスコミは何でも話題を大げさに取り上げるからそのせいだろう。きっとウェーブは日本でだけ有名なんだろう。」
「いや、アメリカのマスコミはもっとひどい。大体アメリカ人てのは旅行に行くと大体旅行先で嫌われている。これは恥ずべきことだが・・・・」
クラークの話が長くなりそうだったので素早く今夜のキャンプの話題に話を切り替えた。
「快適な家に泊めてもらえるのはものすごく嬉しいんですが、砂漠の世界にドップリ浸かりたい。どこか良いキャンプ場はないかな。バックカントリーの雰囲気がたっぷり出ているところがいいんですが。」
「それだったら素晴らしい場所がある。昔子供達をよくつれていったな。僕も今夜一緒にキャンプしよう。」
クラークはキャンプ道具を車に積み始めた。クラークのキャンプ道具は見事にシンプルだった。2人用テント、寝袋、ヘッドライト、ストープ、鍋、水筒、以上だ。
キャンプの準備が終わるとすでに午後の4時だった。
「クラーク、今日の夕食は何にしようか?」
「夕食?夕食ならさっきエミリーがパスタ作っていたぞ。早めの夕食をとってからキャンプに出かけよう。」
日本生まれ日本育ちの僕にとっては夕食作りもキャンプの醍醐味の一つである。一般アメリカ人にとって食とは腹を満たす行為でだけしかないらしい。南西部の砂漠地帯の食文化に大いに落胆した瞬間であった。
その土地の食文化を知りたければ地元の人が使うスーパーマーケットに行けばいい。ペイジの町の一般家庭がよく使うスーパーマーケットとはアメリカ全国チェーンのウォルマートでありウォルマートにある食材がその土地の一般家庭の食生活全宇宙なのである。ちょろっとこの街に来たツーリストが発する悪口のように聞こえるかもしれないが多分大方当たっていると思う。
エミリーは鍋たっぷりのパスタを作ってくれた。
「いっぱい食べなさい。けんじの仕事だよ食べるのは。」
世界中どこに行ってもおばあちゃんと言うのは実に食べてほしい種族のようだ。たくさん食べるとたくさん喜ぶのでたくさん食べることにした。
ギュウギュウ詰めの腹をさすり、子供たちを車に乗せた。僕らのキャンプ道具は車に全部載っている。キャン道具と言うよりも2週間分の生活道具全てが車に積んである。「なるべくシンプルに生きること」をモットーとしている僕にとっては荷物の少なさが大変心地よい。旅に出ると強制的に必要最低限の「物」で生活しなければならない。
クラークの車を追い。彼、おすすめのキャンプ所に向かった。


2013年1月4日金曜日

レイクパウエル 10 砂漠の渓谷に侵入!別世界が広がった。


次の日も同じように起きるまで寝て午前中は湖水浴を楽しみ午後にカヌーを浮かべ湾内のクルーズを楽しんだ。夜は相変わらず数限りない星の下で最高の焚き火を堪能し、テントに入った。翌日は昼までゆっくりし、キャンプ道具をカヌーに再び積み込み車を止めてあるビーチに戻った。

パーティー会場になっていたビーチはウイークデイを迎えすっかり静かになっていた。僕らのシェビーミニバンは無事ビーチに残っていた。カヌーから運び出した荷物を車に積み込む。改めてカヌーの積み下ろしの便利さを実感する。

重いカヌーをミニバンに載せ終わると僕らは再びクラークおじさんとエミリーの家に向かった。僕らはそのままクラークとキャンプを楽しむ予定だった。

「おかえり。どうだった湖は?いっぱい泳いだかい。この辺りの人は泳ぐ季節じゃないから貸切だっただろう。」

若者の崖ジャンプの度胸試しを楽しんでいたが、子供が遊んでいる姿は全く見かけなかった。40度以上まで気温が上がる砂漠地帯ではすっかり秋の雰囲気に入り、泳ぐという気分にはならないらしい。

クラークの住むペイジ近郊には世界的に有名な観光地が数多く点在している。その中でも最も有名なのが「アンテロープキャニオン」である。砂岩でできた美しい渓谷で写真を見たことのある人も多いだろう。「アンテロープキャニオン」で画像検索すれば簡単にその絶景を見ることが出来る。


もう一つ有名な場所が「ザ・ウェーブ」だ。ペイジから西に30分ほど車を走らせた砂漠地帯にある。砂漠に現れる岩山の一部が数センチ単位の細かい地層が地殻変動で波のようにうねりを作りだしている。希少な景観を守るために1日20人に入場が制限されている。入場許可を取るにはインターネットでの抽選、もしくはペイジの隣町「カナブ」のインフォメーションセンターで早朝の抽選会に参加しなければならない。世界でたった20人だけが入場を許可される超有名スポットだ。インターネットでも「死ぬまでに一度は見てみたい風景ベスト10」などに選ばれている。

「クラーク、ウェーブはどの辺りにあるんですか。」

「ん?ウェーブ?聞いたことが無いな。エミリー、そんな地名聞いた事ある?」

「いや、聞いたことないね・・」

なんとペイジに10年以上住んでいたことがあるのに世界的に有名な「ザ・ウェーブ」を知らない。というよりも「ザ・ウェーブ」は日本でのみ「世界的に有名」だということが判明。こんなのは他にもたくさんありそうだ。





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2012年12月25日火曜日

レイクパウエル 9 砂漠の渓谷に侵入!別世界が広がった。


我々のキャンプサイトの近くに数十メートルもある岸壁に囲まれた小さな入り江があった。その入江にカヌーを入れる。
岸壁に近づくと我々の乗ったカヌーがまるでお菓子についてくる景品のおもちゃのように感じられた。ただの茶色の壁がこれだけの人間の精神を圧迫するものだろうか。岸壁は水面下まで続いている。水面下にどれぐらい深く落ち込んでいるか想像もつかない。もしかして、数メートル。しかし、見上げる岸壁を見ていると数十メートルの深さまで続いてるかも知れない。水中に存在するグランドキャニオンクラスの渓谷を想像するだけでなんだか気持ちが落ち着かない気持ちになる。

その小さな入り江の奥から2艇のカヤックが姿を現した。見た目40代の夫婦。カヌーなどの装備を見ればレンタルではなくてカヤック愛好家だとすぐに分かる。近づくとお互い挨拶を交わす。お互いウィルダネスを求めて来ているので他人会う時の挨拶はそれほど感動的ではない。基本、人を避けているのでその挨拶は軽いものとなる。

近づくと男性のカヤッカーの装備が今まで見たこともないようなギア満載であった。カヌーの前後にGO PROのカメラを取り付け、カメラのリモートコントローラーを二の腕に装着。GPSをコクピット前に設置してその上コンパスをぶら下げている。こんなギアマニアなカヤッカーに僕は一度もお目にかかったことはない。

「こんにちは、装備がすごいね。カメラ2台も設置して。」

「ああ、前のカメラは10秒毎にシャッターが切れるように設定してある。後ろのやつは景色がいい時にビデオを撮るようにしている。ところで、家族でカヌーに乗っているところを写真に撮る機会はなかなかだいだろう?写真とってあげるよ。」

彼にとって旅を写真などの記録に残すことは大変重要なことなのだろう。確かに、カヌーを湖に浮かべている写真を家族揃って取ってもらう機会はなかなかないのでありがたく親切に甘えることした。お互いの艇を近づけて僕の一眼レフカメラを手渡すと、慣れた手つきでカメラを操作し写真を撮ってくれた。僕らがお礼を言うと彼はまた、10秒に一枚写真を取りながら入江の外へと漕ぎ出していった。

入江の一番奥にある小さなビーチからは上陸して散策が楽しめそうだったが、時計を見るとすでに午後の5時。7時には暗闇に包まれるので僕らはカヌーをキャンプサイトに向けて漕ぎだした。今晩も焚き火のパーティーが待っている。

夕食はパスタ。二日目から食生活は一気に貧しくなる。パスタ料理が貧しいと言っているのではない。アメリカのレトルト食品を使ったパスタが貧しいのである。

缶詰のトマトソースとエビの缶詰を使ってシーフードパスタを作ったがこれがビミョーに失敗であった。パスタソースは良かったのだが、エビの缶詰がまずかった。エビといえばムッチムチをプリンッとした食感で食べるのが最高だが、缶詰エビはフォークでつついただけでまるでツナ缶のツナのように見がほぐれ、トマトソースと共にアツアツに暖めた頃にはすっかり身がどこかにいってしまった。しかもなんとなく生臭さが残り、完成する頃にはすっかり腹を満たすだけの物体に成り下がってしまった。

2日目からの食事の貧しさはほぼ僕の食に対する知識と工夫不足のせいであることは認めよう。しかしながらアメリカ中西部の食の貧しさに関しては恐ろしく貧しと言わざるを得ない。

アメリカのスーパーマーケットの巨大さは凄まじい。サッカーコート1面分ぐらいはあるのではないだろうか。買い物客を見ると大型のスーツケース5杯分ぐらいは余裕でカートに載せてレジに並ぶ。食材は豊富だ。しかし、決定的に不測しているのは新鮮さだ。ナマモノが決定的に少ない。季節の野菜と言えばとうもろこしと桃ぐらいで、青果コーナーの顔ぶれは一年を通して変わることがない。

巨大なスーパーの大半は冷凍食品と缶詰、ポテトチップスで絞められている。ポテトチップスはさすがに大げさに書いたが、保存可能な食材の占める割合が異常に多いのは本当のことである。

アメリカの大半の家では冷蔵庫とは別に大型の冷凍庫を持っている。アメリカは日本から出た事のない人には想像出来ないぐらい大きい。10分車を走らせればどんな田舎でもスーパーやコンビニのある日本とは違い1時間ドライブしないとまともなスーパーマーケットに行く事が出来ないという人は珍しくない。そういう場所に住んでいる人達は数週間分まとめて買い物をする。絶対的な「ディスタンス」が食文化を貧しくしているのではないかと思うが、それにしても平均的アメリカ人はもう少しベターな食生活を送ってもいいと思う。

アメリカで手に入らないものはほぼ無いといっていい。大都市に行けば、キャビアやフォアグラはもちろん、ごぼうや納豆だって手に入るのだ。本気を出せば利尻こんぶだって手に入る。庶民レベルでなぜもっと食文化が発達しないのかが不思議でならない。食に関するこだわりは日本特有のものなのだろうか。人間の欲求の基幹をなす食欲に貪欲さがこのアメリカ中西部では絶対的に不足している気がしてならない。

太陽が完全に沈んだ後、山陰から漏れる薄い光の中で一人で湖に漕ぎ出す。荷物のない大型カヌーを風の中で真っ直ぐ進めるのは不可能だ。大風の来ない夜直前の湖面を一人で楽しんだ。 にほんブログ村 アウトドアブログへ
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2012年12月23日日曜日

レイクパウエル 8 砂漠の渓谷に侵入!別世界が広がった。

子供たちは相変わらずカヌーの船底に寝そべって絵本を読んでいる。子供にはきっと「非日常」がないのだろう。普通ではない景色を楽しむには普通の世界にどっぷり浸かり普通の経験を積む必要がある。子供たちの無感動具合を見ていると最大の感動を得るには長い長い普通の生活が欠かせないのだろうと思う。平凡な日々の大切さを噛み締める良い機会を子供たちは与えてくれる。

渓谷から出ると相変わらず広い青空が広がっていた。湾の中にはレジャーボートが増えていた。あるレジャーボートは僕らの木の葉のようなカヌーには全く遠慮無く大波を立てて爆走していく。波にバウを向けて波をやり過ごす。

船には十代と思われる若い男女が8人ぐらい乗っていた。その船は崖片側が10メートル以上の崖になっている島にたどり着くと崖のてっぺんに登り、そこから次々にダイブした。飛び込むのを躊躇する者にはレジャーボートから「飛べ!」と大合唱が始まる。最後のまで飛べなかった女の子がいた。僕は飛び降りた時にビキニが取れておっぱいでも見えはしないかと期待していたが。湖に飛び込むと若者達からは健康的な大声援が起こった。

遠くから大音量でハードロックの大御所ヴァン・ヘイレンの名曲ジャンプの曲が聞こえてきた。その音楽は数人が宿泊出来るハウスボートと呼ばれる大型の船から聞こえてきた。ハスボートとは船のキャンピングカーと思ってもらえばよい。金属製のいかだにキャンピングカーの住居部分を載せたもので操行性能は完全に二の次になっている船である。

ハウスボートは3メートル程の崖を持つ岸のそばに係留されている。崖の上には十歳前後の子供が3人立って湖面を覗き込んでいる。ボートにはその両親とおもわれる男女がデッキチェアーに座り、盛んに子供達に声をかけている。
「いけいけ!大丈夫!」

先ほどの若者の大半は10メートル以上もある崖から躊躇せずガンガン飛び込んでいたのでスゲーなと思っていたが、なるほどこうやって子供の頃から鍛えられているのだなと納得がいく。

とにかく、アメリカ人はモーターが大好きだ。昼間のレイクパウエルはボート天国であった。それでもなぜかモーター音の不快さはあまり感じられなかった。大抵のモーターボートは僕らの姿を見つけるとスピードを落として波が立たないように配慮してくれたし、僕らを避けるように大回りしてくれた。

モーターボートだけの遊び場かというともちろんそんな事はない。僕らと同じ動力無しで湖を楽しむ仲間を水面に見つけることもある。それでもここはやはりアメリカ。僕が住むカナダではあまりお目にかかれないタイプのカヤッカーにも出会う事ができた。

2012年12月12日水曜日

レイクパウエル 7 砂漠の渓谷に侵入!別世界が広がった。





そこはしんと静まり返り、断崖に囲まれた狭い空に照らされた空間だった。波一つ立っていない水面は鏡のように平でところどころに浮かんでいる流木の水面から出た部分が水面にきれいに映り上下対称に見える。自然界に完全に真っ直ぐな物を見つけるのは難しい。その代表格は水だ。湖面に映った富士山はその代表格である。

上下対称の世界をカヌーで行く。カヌーの先端が鏡面のような水を切り裂くき、後ろを振り向くと2つに別れた波紋が岸に向かってきれいに走って行く。波紋が渓谷の両岸の当たると、水面はまた静寂を取りもどす。

カヌーを進めるごとのに両側の崖は完全に垂直になる。壁は何重もの地層になっている。この辺りの地層が小さな砂粒から成る砂岩である。様々な大きさの粒からなる砂岩は触っみると脆くナイフで簡単に傷が着くほど柔らかい。崖にはところどころ小さな穴が規則的に並んでいる場所がある。

地層の創りだす芸術的ともいってもいいオブジェが次々に現れる。そんな中子供二人の目をやると景色には一切興味が無いようで、カヌーの底に寝転び絵本を読んでいる。騒いでいるよりはずっとましなので静かな環境で目の前に次々に現れる芸術作品を楽しんだ。

ところどころ太陽の光が狭い渓谷の入口をすり抜け湖面まで届いている場所がある。太陽の光が壁に反射して投写されると、まるで光の網の目が揺らめいているように見えて大変美しい。壁に近づくと自分の平衡感覚がおかしくなってくる。

カヌーを峡谷の奥に進めれば進めるほど両側の岸壁がせまり渓谷が細くなる。水面下は数十メートルの深さがあるはずだ。それを考えると急に恐怖が心臓近くに湧き起こり、ざわざわとした感覚が胸全体を覆った。進むにつれて両側の壁が迫って来る。そしてどんな種類の木かわからないがセージブラシのような小さな枯れ葉が水面に漂いはじめる。その枯れ葉が目立ち初めてから数十分すると枯れ葉が水面全体を覆った。枯葉に覆われた水面にパドルを入れるとまるで粘土をこねるような感触があった。カヌーの進みも遅くなる。

「なんだか気持ち悪い、帰ろう。」

カミさんが急に声を出した。

女性は環境に敏感である。冬山に行ったら女性の指示に従えという登山入門書がカナダにあったと思う。

女性の方が確実に危険察知能力は上だ。子供がいる女性を知る人はご存知だと思うが母親としての用意周到具合は知性の範疇を完全に越える。数分歩けばコンビニに出会える大都会に行くのにお弁当を用意する、高級ホテルに宿泊するにもかかわらず自宅からタオルを大量に持っていく。それでも結果は大抵女性の方が正しい。

女性の偉大なる危険察知能力は3日後に明らかとなる。

2012年12月6日木曜日

レイク・パウエル 6


朝目が覚める。うっすらとテントの外が白くなり、テント内にある物体の形が浮かび上がる程度の明るさだ。誰も起きてないらしい。僕以外の寝息がテントの中に響き渡る。寝息が響き渡るぐらいし静かな朝は僕に二度寝をもたらした。起きる理由が無い朝はなんて素敵なのだろうか。
2度目の目覚めは強烈な光によってもたらされた。テントは黄色で太陽の光も黄色だ。黄色の二乗は四倍の光となって僕のまぶたの後ろを刺激した。もはや朝とは言えない光とテント内の気温がやっと僕の腰を上げる気にさせてくれた。それでも立ち上がる理由はない。学校も会社も無いのだ。余程の理由がない限り今一番快適な状態を変えようとは考えられない。
3度目に目が覚めたのは息苦しさのせいだ。テント内の気温は40度近いのではないだろうか、今着ている服を全て脱ぎたい。じっとしていても鼻先に発汗を感じる。我が家の女子達はそれでも息苦しそうに惰眠を貪っているのは女子特有の特殊能力だろうか、目覚める気配は無い。暑いのだがそれも僕の体を起こす理由にはならなかった。まだ我慢できる範囲の気温だ。枕元の本を読んでいると強烈な尿意を覚えた。究極のぐうたらもどうやらおしっこには勝てない。僕はやっと体を起こしてテントのジッパーを開けた。
テントの入口を開けるとさわやかな空気がテント内に入り込んで来た。真夏のコンビニに駆け込んだような爽やかさを覚える。空を見上げると強烈な青。宇宙まで透けて見えそうな濃い青空が広がっていた。砂漠のキャンプは大好きだ。砂漠が砂漠になるのは極端に晴天率が高いからだ。山岳地帯のキャンプのように毎日天気予報に怯えて過ごすことはまずありえない。僕の住むカナダから1500キロも運転してきたことを心から感謝した。
時計を見るとまだ朝の9時だった。おもいっきり朝寝坊した気がしたがそれほど時間は経っていなかった。普段家で生活している時の朝の時間が過ぎる速度といったらまるで早口言葉の三倍速である。テントから這い出て少し歩き影を見つけおしっこをしているとおしっこの出る速度までゆっくり感じたが、それは僕が去年40歳の誕生日を迎え、年を年を取ったからである。
風は無く湖面は鏡のように静まり返っている。週末が終わり月曜日ということもあり、昨日はあんなに湖を漂っていたモーターボートが1隻も見えない。娘のメリが起きてきた。朝食を一緒にとる。僕はインスタントのポテトスープをメリは温めた牛乳を飲む。この気温だと牛乳は今日限定。明日からは牛乳は無し。不便な世界に入り込むと否応なしに様々なルールが発生する。これらのルールに沿って工夫する楽しみがある。食事一つとっても冷蔵庫がない場合、色々と工夫をしなければならない。不便さはアイディアを産み万能は怠惰を産む。しかし、僕の頭の中には特に新しいアイディアが思い浮かぶ事なく、誰かに聞いたり本で読んだメニューで残りの食生活を過ごすごとになる。
朝食を終えると、なんとなく過ごす。やることが無いのだ。メリは昨日の続きの本を読み僕も昨日の続きの本を読んだ。嫁と下の娘ソノラもテントから這い出してきた。彼女らが這い出してきた頃は太陽が本気を出して地面を照りつける午前10時という時間だった。後から起きだしてきたメンバーは朝食とも昼食とも言えない食事を取り、各自フリースタイルでくつろいだ。
「くつろぐ」というのは退屈である。日本産まれ日本育ちの僕には「くつろぐ」というのが我慢出来ないらしい。結局何かかしないと落ち着かない、時間を無駄にしているような気がする。日本で超忙しい海外旅行ツアーが売れるのはこの国民性によるのではないかと思う。ツアーが忙しければ忙しいほど「この旅行社は仕切りが良い!」なん喜ばれたりする。普通の日本人にはきっと、一ヶ月バケーションで何もしないとかは無理なんだと思う。幸い僕らの目の前にはジリジリと照りつける太陽の下に美しい湖があった。目の前には小さいながらも砂地のビーチがあり、湖岸から十メートル先にはいい感じの周囲数メートルの島がある。これは泳ぐしかない。
ジリジリと照りつける太陽光線が僕の背中を押した。水に飛び込むと予想以上に水温が高い。ライフジャケットを着けて飛び込んだのだがこれは癖になる。何もしなくても頭が出るのは楽で良い。太陽光線でほってた体は5分ほどで冷却され快適な湖水浴を楽しんだ。子供達もライフジャケットを身につけ恐る恐る湖に入る。いったん入ってしまえば子供にとってそこは天国。丸めたスリーピングマットをフロート代わりにして遊ぶ。湖の中に潜ると薄い水色の世界が広がっていた。透明度は5メートルほど。ビーチから数メートル離れると底は見えない。ここはかつてグランドキャニオンに匹敵する大渓谷だった場所だ。ビーチから数メートル先は数百メートル落ち込んでいる可能性もある。想像力をかきたてる湖である。
インスタントラーメンを食べ終えて時計を見ると午後の2時だった。これはゆっくりし過ぎた。午後7時には湖全体が暗闇に包まれてしまう。残り時間はたった5時間、太陽が地上に出ている時間はたった4時間だ。僕らは湖から上がりカヌー探索の準備を急いだ。
カヌーに乗り込む前にこの辺りの地図を確認する。iphoneにダウンロードしてきた地図が一番正確だ。キャンプした入江を北上したところに狭い渓谷が見つかった。地図によるとその渓谷は約1キロ漕ぎ上がった場所で水がなくなるようだ。
カヌーに乗り込み漕ぎ出す。湖面はおだやかだ。時よりジェットスキーや釣り船が通過する。狭い入り江の中なのでモーター付きのボートもそれほどスピードを出せない。複雑に入り組んだ湖岸線に沿って北上すると30分も経たないうちに目的の渓谷の入口に着いた。渓谷の入り口は思ったより狭く、両側は10メートル以上の切り立った崖に囲まれている。なんだが進むのが怖い。体験した事のない世界に入り込むと感動と同時に恐怖がやってくるのはおそらく体験した人にしかわからないだろう。我々はこの先でそんな経験をすることになる。





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2012年11月29日木曜日

レイク・パウエル 5


上陸して荷物を下ろす。子供たちはライフジャケットが脱ぎたがったが、それは無理。水辺にで遊ぶときは必帯である。荷物を下ろす作業は簡単に終わった。100リットルの防水バックと調理道具を入れた箱を運び出せべほぼ荷降ろしはおしまい。カヌーならでは気軽さである。これがシーカヤックとなるとそうもいかない。シーカヤックは船室が細かく分かれているのに加えて荷物室の入り口が小さい。荷物を積む時にはまるでパズルのように考えながら上手に荷物を積まないと大量の荷物は積めない。また、取り出すときも口の狭いツボから取り出すように少しずつしか荷物を取り出すことは出来ない。気軽さで言えば、カヌーに軍配が上がる。しかしながら、岸まではるか遠い場所を行くならばひっくり返っても再び乗り込みやすいシーカヤックの方が圧倒的に安全である。カヌーとカヤックには一長一短があるので状況によって使い分ける必要がある。
すっかり荷物を下ろし終え、テントを張る。テントはノースフェースのロードランナー3人用。友人がアウトドアショップの懸賞て当てたものを譲ってもらった。子供が3歳、4歳なので3人用でちょうどよい。もっと大きな物を買えば長く使えるが、アウトドア用品って実はあまり長く使わない。人間の技術の進歩は凄まじく、次から次へと新しい製品が出てくる。特に携帯電話をはじめとする電子機器はその度合が凄まじいのは誰でもご存知であろう。昨日の製品が今日は数割引で悔しい思いをしたのは僕だけでは無いはずだ。アウトドア用品も例外では無い。現在のピッケルやアイゼンは驚くほど軽くなり。寝袋の下に敷くマットでさえ軽量化が著しく向上している。そのうち現地まで飛んで行ってくれるテントまで出かねない勢いである。「一生もの」という言葉は広告業界が作り出した消費者にものを買わせるための言葉なので注意が必要だ。「一生もの」なんてものは産まれた時のへその緒一つで十分である。しかも、現在、世の中の物が安くなっている。古いものはバンバン捨てるべきである。そして便利な新しいものに切り替えるべきである。こうしてどちらにせよ。誰もが広告業界に踊らされて生きていくのである。
とにかくテントを張った。下は岩なのでペグが全く入らない。夜は家族全員が寝るのでどんな強風が吹いてもテントが飛んで行く事は無い。テントが風で飛ばないようにテント内部の四隅になるべく重い荷物を置いた。
時間はすでに4時。10月の終わりなので6時すぎには太陽が沈む。太陽が沈むまでに夕食を済ませなければならない。湖に近い位置にコールマンのツーバーナーをセットしキッチンを作る。初日は保存の効かない食材を中心にメニューを考えた。アメリカの砂漠といえば・・・・・何も出てこないですよね?アメリカ内陸部にいつ来ても感じるのは食生活の貧しさである。ラスベガスの高級レストランに行けばいくらでも充実した食生活が送れるかも知れない。ここで言う食生活とはそういうものとは違う。庶民レベルでの話だ。アメリカのスーパーマーケットに入るとその大きさに圧倒される。ズラリと並んだ缶詰、ジュース、冷凍食品に圧倒されるが、その一方野菜などの青果物の種類の少なさに圧倒される。特に魚類は一切期待してはならない。肉コーナーが魚コーナーを侵略し、お!鯛か?と思えばティラピアの切り身、それと色の変わり初めたマグロ君がわずかに健闘してるのみである。ここはアリゾナだ、文句ある奴はそこにマルちゃんのインスタントラーメン、チキン味24個入りが一箱あるからそれ喰ってろ!というインスタントバンザイ態度が丸出しである。昆布でダシを取って味噌を煮立てないように溶かすなんて繊細さは当たり前に無いのだが、コレにお湯入れればそれだけでウマイぜ!とか、味付き調理済冷凍手羽先10キロ千円どうだ!という雰囲気に満ちている。こうなるとその雰囲気に飲まれ、「それじゃ、今日はでっかいステーキでも焼くか!豪快にな!はっはっは!」と、いうことになり、初日の夕食はステーキに決まった。ステーキは炭火で焼くことにしてそれ以外の付け合せなどを未だ強烈な太陽の光を浴びながら調理し始めた。

僕らのキャンプサイトは細いフィヨルドのような入江の入り口付近にあるため、モーターボートを見かける事はあまりなかったが、小型の釣り船やジェットスキーが時折目の前を通り過ぎていった。太陽が地平線に近づくにつれて船の行き来も少なくなってきた。太陽が完全に沈むとテントから少し離れた場所で火を起こす。砂漠なので薪は極端に乾燥し、新聞紙一枚で簡単に大木に火がつく。火を囲んで家族だんらんの時を過ごす。夕日が残すピンク色の空が次第に濃紺に侵略されていく。空全体が濃紺に染まると共に無数の星が瞬き始める。焚き火と星以外に一切光のない世界。空は星の明かりが空を支配し、地上の僕らを照らす焚き火はその光が安定せず、ゆらゆらと足元を舐めるように照らす。宇宙からの光に圧倒されながら焚き火の明かりをコントロールしていると、なんだが分からないが「地上に生きている」と感じることが出来る。今日の、明日の楽しみの為に小さな明かりを灯して短い夜の楽しみを終え、食事を済ますとさっさとテントに入った。

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2012年11月22日木曜日

レイクパウエル 4

週末のパーティー会場と化しているビーチを後にして目的地、ワーウィープ湾から北に伸びる大きな入江を目指した。爆音で音楽を楽しむ若者のグループを湖面から眺めながらビーチ沿いに漕ぎ進む。ビーチにはジェットスキーが頻繁に出入りし、ジェットスキーが作る波が僕らのカヌーを軽く揺らす。ビーチ沿いに北に向かう。 
目的のキャンプ地は出発地点の対岸にある。対岸に一番近い地点を目指して、湖岸沿いにカヌーを進めた。 
出発地点のビーチからは頻繁にジェットスキーが出入りする。ジェットスキーやモーターボートを楽しむ人々たちは老若男女関わらず、僕らのカヌー近くを通り過ぎる時には速度を落とし波が立たないように気を使ってくれる。湖遊びの常識がまるで交通ルールのように浸透しているのに感心する。 
それにしてもアメリカ人はモーターが好きだ。レイクパウエルは水上のモータースポーツのメッカでもある。モータースポーツといっても規制が細かく決まっているヨーロッパ発祥のF1のような上品なものではなく。ただただ、モンスターエンジンを積んで爆走するのがいいようである。エンジンはデカければデカイほど偉い。エンジン音も同じ。そして何にでもエンジンを付けてしまう。前に走るものには何でもエンジンを付ける。スケートボードはもちろん、スニーカーにも付けてしまう。そのうちベビーカーにもエンジンを付けるに違いない。 最後のベビーカーは冗談で書いたが、本当にあるかもしれないのがアメリカだ。
ワーウィープ湾にはローンロックと呼ばれる巨大な岩山が犬歯のように湖から突き出し、一周約600メートルほどある巨石は不気味とも言える存在感を放っている。高さは10階建てのビル以上の高さがあり、下の部分3分の1は白っぽく変色している。かつてこの湖が満水だった頃には白く変色した部分は全て水の下に沈んでいた。現在レイクパウエルの水位は年々下がり続けているらしい。下流にあるラスベガス、ロサンジェルスの人口増加に伴い水が不足し、カルフォルニア州では水源確保が深刻な問題になっている。 
湖岸を漕いて最も対岸に近いと思われる場所を見つけて湖を横断する。クラークの孫、ブライセンが一度カヤックで渡ったことがあり、聞くとほんの20分ぐらいだったという。それでも湖岸から離れるのは緊張した。湖岸から離れ、ウエイクボードを引っ張るボートに怯えながら全力で対岸まで漕ぐとたったの15分で対岸に着いた。 

目的の入江の入り口は意外と大きかった。事前に地図を入手して調べてきたが、この地図が全く役にたたない。かつてこの湖が満水だった頃に作られてた地図は湖岸線が全く異なっており。島が半島になり、多くの入り組んだ入江はなくなっていた。その代わり新しい入江が複雑に出来上がっていた。
今回ナビゲーションに最も役にたったのはiphoneだった。電話会社の地図では湖全体が通話エリア内だったが実際にはほとんど場所が微弱な電波しか捉えることができないか、もしくは全く通じない。それを見越してアイフォーンに今回漕ぎそうなエリアを全てダウンロードしておいた。アイフォーンのGPSは実に優秀で体感数メートルの誤差で自分のいる位置を示してくれた。グーグルのマップと合わせて使うと最強である。アウトドア-ショップに売っているGPSのクオリティーが馬鹿らしい程低く感じる。水位によって激しく変わるレイクパウエルの湖岸線もグーグルの地図が最も正確だった。紙媒体は手に馴染み慣れ親しんでいるが、情報の速さでデジタルにはかなわない。
バックカントリーに入るに際して様々な意見がある。ある人はアイフォーンはもちろん携帯電話を持ち込むのは邪道だという超ハードコアな意見もあれば、携帯は緊急時対策でOKである、しかしながらGPSはアウト、コンパスを使いなさいという意見まで様々だ。
バックカントリートリップはゲームだ。最新のギアーに限らず、持って行く物を制限すればするほど難易度が高いゲームになる。エベレストの無酸素然りだ。
今回の旅を最も困難にしているのは子供が一緒であるということだ。チャレンジは許されない。二重三重のセキュリティーを用意しなければならない。いかにバックカントリートリップを安全に楽しむかを優先したので、ハイテクギアに遠慮無く頼り、考え得る中でも最も安全を重視した装備で臨んだ。
出発が午後だったので、早めにキャンプ地を決めることにする。キャンプ地の条件は、周りに誰も居なく、ビーチがあり、テントを張る平らな場所があることだ。そんな条件の場所はなかなか無いだろうと複雑な湖岸にそってカヌーを漕ぐと間もなく良さそうな場所が見つかった。「もっといい場所があるはずだ。」と更に良い場所を探し、結局見つからなくて時間だけを無駄にするというミスを過去何度も繰り返してきたのでファーストインプレッションを信じてそこにキャンプを張ることにした。
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絶景キャンプの紹介頑張ります。


2012年11月12日月曜日

レイクパウエル 3


到着したレイクパウエル湖畔はレイブのパーティー会場のようになっていた。ウーハーを積んだ車が大音量で重低音を響かせている。若者達は4輪バギーで走り回り、ジェットスキーが爆音を立てて鏡のような湖面を切り裂きながら猛スピードで突き進んでいる。 
「おい、大丈夫か?これ。」 
僕はウィルダネスを期待していた。本当にこの湖で大自然を満喫出来るのだろうか。 
カミさんに問いかけようとした時にはすでに折りたたみ椅子を出してリゾート気分を楽しもうとしている。子供たちを水着に着替えさせ、日傘を出し、到着5分後にはビーチの雰囲気にすっかり溶けこんでいた。 
僕は重いカヌーを車から降ろし、食料をキャンプ地用と行動中に分けてパッキング。予備のパドルを確認。3泊4日分の装備をしっかり確認し始めた。 
装備は最小限に抑えなければならない。バックカントリーに入るには荷物を最小限に抑えるべきだというのが僕の持論だ。最小限でありながら何か事故があった時には必要な物は全て揃えておかなければならない。 
今回の旅の装備を記しておく。 

・住居 
テント 
テントマット各一枚 
寝袋 
ヘッドランプ各一つ 

・食事 
コールマンツーバーナー 
鍋大小2つ 
フライパン 
スプーン・フォーク各一セット 
ナイフ 
ライター数個 
塩・故障・醤油 
朝食3日分 インスラントラーメン 
昼食3日分 サンドウィッチの材料 
夜食3日分 初日豪華にステーキ、レトルトのカレー、パスタの材料 

・その他必要装備 
トング 
ランタン 
ファーストエイドキット 
着替え各2組と雨具と防寒着 
船修理キット 

以上の装備があればバックカントリーで生きて行く事が出来る。むしろ無駄をすっかり省いた生活は気持ちいいぐらいだ。自動的に我が家では2ヶ月ぐらいインフラが止まっても食料さえあれば全く問題なく生活出来る術を家族揃って身に着けている。 
しかし、最低限の生活は動物の生活だ。人間は「社会的動物である」と言ったのは誰か忘れたが有名なエライ人だ。(ケインズだっけ?)生命維持の装備だけでは人間は楽しめない。そこで贅沢品をいくつか持って行くことになる。 

・贅沢品 
かみさん:数冊の本だけ 
幼児二人:絵本6冊、i-pad(車に置いていくのが不安なのでやむを得ず)、クラークの所からもらってきたぬいぐるみ4つ(一つ一つがでかい!オーストラリアのウォンバットぐらいある) 
僕:本、iphone、そして、ビール350缶36本、 


僕は子供達が巨大なぬいぐるみを持っていくのに難色を示し、カミさんがバスタオル一枚、下着一枚多く持って行くのにもさえうるさく意見した。しかし、 
「あなたのビールに比べれば・・・」 
の一言で一刀両断。僕の「装備は最小限に」というモットーはすっかり崩れ去るのであった。確かに妻の下着一枚なんてビール36缶に比べれば羽毛のような重さである。反論は絶対に不可能である。 
カヌーというのは実に優秀でかなりの積載量がある。また、シーカヤックと違ってトラックの荷台に荷物を載せるようにガンガン考えなしで積みこむことが可能だ。 
持っていく道具をストイックに絞り込む必要がある冬山の縦走とは違い、大量の荷物が必要になる家族全員で文明の届かない自然の世界を縦漕出来るのはカヌーという道具ならではの楽しみである。僕の大好きな自然の中に入っていく行為は子供が出来て以来一旦諦めなければならなかった。僕一人で行けばいいのだが、僕は僕の責任全てと楽しみたいのである。バックパッキングで山に入るのに彼女達の寝袋まで持っていくのは不可能では無いが快適で楽しい体験とは程遠い。そんなストレスを解消してくれたのがカヌーである。カナダに住んでカヌーに出会った事を心から感謝している。なにせビール36缶積んでもウィルダネスに入って行けるのだから。 

PS.エドさんゆかちゃん借りてたパドルここでも使っちゃいました。今度返しに行きます。ごめりんこ。