北米で最も危険なリゾートと呼ばれる「ジャクソンホール」に行くことが決まったのはタクの誘いからからだった。彼がカナダに来て以来毎年、「いきましょうよ~」と誘われていた。タクはカナダに純粋にスノーボーをしに来た。スノーボードをするためだけに来たので英語学校に通ったこともないし、もちろん英語はからきしダメ、実際カナダで3年間もモーマンタイで生活出来ているのが不思議なぐらいだ。
3年間温めた計画を今年実行出来たのはなぜか分からない、人生はそういうものらしい。
僕はすでに3歳と5歳の子供がいる。タクは気の合うガールフレンド、もっちゃんと一緒に旅をする訳だが、こっちは家族4人の大移動である。面倒なので僕らの住むカナディアンロッキーバンフの1200キロ先で現地集合することにした。お互いベタベタしていないスノーボードだけの関係に感謝。しかし、スノーボードの関係は日頃からベタベタとつるんでいるよりは心のつながりは深い。よろしくである。
バンフを出発して5時間でカナダとアメリカの国境に到着。別に悪いことをしているわけではないのだがなぜか緊張。問題なく国境通過。
カナダのカルガリーからジャクソンホールまでの道のりはアメリカで最も田舎の州を通る。モンタナ、アイダホ、そしてジャクソンホールの位置するワイオミング州はアメリカでアラスカを除いては最も人口が少ない州である。
海から千キロ以上離れている関係で非常に乾燥している。南下するハイウェイの両側は広大な草原。この草原はプレイリーと呼ばれており、年間の降水量は500ミリ前後。台風が来れば1時間で100ミリ以上雨が降る日本とは雲泥の差だ。あまりにも乾燥しているため大きな木は育たない。どこまで走っても見渡す限りの大平原が広がっている。大平原が続くモンタナ州を過ぎると、ハイウェイの東側に険しい山脈が見えてくる。あまりにも遠いので箱庭の山のように見える。
ハイウェイを降りて田舎道を遠くに見える山脈に向けて車を走らせる。視界に入る農作物は牛ばかり。新鮮な魚がおいしく見えるように牛はおいしく見えないが、最高の滑りを楽しんだ後のステーキは最高のはずだ。
ここまでの道のりを簡単に書いたが、すでにわが町バンフを出発してからすでに千キロのドライブだ。かなり疲労がたまっているが、目的地のグランドティトンの山々が近づいて来ると疲労がなくなるわけではないが、かなり軽減される。スノーボードパワーは常に僕の気持ちを回復してくれる。
途中偶然タクと合流。聞くとタクには一つ心配事があった。彼の車にはスタッドレスタイヤが付いていない。ジャクソンホールに行くには2000メートルを越えるティトン峠を越えなければならない。ティトンパスはアメリカでも有名なバックカントリーエリアである。パウダーを求めるジャンキーが集まってくる峠だけあって豪雪地帯だ。天候が悪ければ道路は前面雪に覆われる。
「タイヤチェーンを買いたいんだけど・・・」
彼はアメリカ内陸北部の田舎具合を完全になめていた。この辺りではタイヤチェーンは一般的ではなく、売っている場所はかなり限られている。人口数万人の町があったのでローカルに尋ねてその町で一番でかい店に訪れるタイヤチェーンはない。アウト・・・。これから通過する町はどこも人口数百人程度。まあ、タイヤチェーンを手に入れるのは不可能、何とかなるだろうと根拠のない確信を持ってティトン峠を越えることになった。スノーボーダーの人生はいつもそんな不透明な確信と共に歩んでいる。
ティトン峠の路面には雪がほとんどなかった。ラッキー!いや、ラッキーじゃないだろ。雪を求めてやってきたのだ。この時点でタクはほっと安心していたのだが、後でとんでもない体験をすることになる。
ティトン峠の頂上に向けて車は少しずつ標高を上げていく。標高が上がるにつれ、ハイウェイ両側の雪の壁が高くなっていく。雪の壁の高さが1メートルを越えた辺りだろうか、ハイウェイ周辺の山の斜面に滑った跡が見え始める。高度をあげるにつれその数が増えていく。まっさらな斜面に数本ずつスキーのトラックが入った様子はまるでヘリスキーの広告だ。そんなおいしい斜面がハイウェイの両側に次々に現れる。興奮はティトンパスの頂上で最高潮に達する。ティトンパスの頂上には比較的大きな駐車場が設置されていて、そこには本当に動くのかどうか分からないような古い四駆が十数台駐車してあった。アウトドアメーカーのステッカーが隙間なく張られている車を見ると大人になりきれない大人が遊んでいるのが想像できる。ステッカー使用度って子供度を測る一つの指標になるという持論を持っているが、結構当たっていると思う。
峠を越えるとジャクソンの町だ。バンフから旅に出て最後に信号を見てから2日経っていた。何も無い大平原を2日間かけてドライブした僕らにとってはジャクソンタウンは大都会だった。
ポニーエキスプレスというモーテルにお世話になった。営業妨害になってはいけないと思うのだが、外見はお世辞にもほめられない。どうやら駐車場が鹿の獣道になってるらしく、鹿の糞が散乱しているし、部屋に上がる階段にはごみが散乱していた。ウェブサイトで見た素敵な外見は良さげに撮影されている事は間違いないが、あまりにもギャップにちょっとひいた。が、部屋のドアを開けたとたん、不安は喜びに変わった。中身は別世界、42インチのテレビが設置され、ホームパーティーが開けそうな広さで、しかもなかなかおしゃれな空間だった。ベッドルームも快適そうで僕の子供二人は「すごーい!」を連発し、丁寧にセットされたベッドの上を無遠慮に飛び跳ねていた。
キッチン付きだったのでスーパーへ買出しへ。タクともっちゃんのリクエストで分厚いステーキを買った。牛の名産地だから牛を食らう。大雑把に味付けしてチョットしょうゆで食す。こちらの高級肉に言わせれば霜降りなんてとんでもない。赤身でやわらかいのが特徴。赤身でやわらかいと言っても霜降りよりは硬いのだが、その弾力を歯で楽しみつつジューシーな甘みを楽しむ。ここまでカナダから100キロ以上運転している。ガッツリ食ってさっさと寝た。あこがれのジャクソンホールを夢見ながら。。。
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