2012年11月29日木曜日

レイク・パウエル 5


上陸して荷物を下ろす。子供たちはライフジャケットが脱ぎたがったが、それは無理。水辺にで遊ぶときは必帯である。荷物を下ろす作業は簡単に終わった。100リットルの防水バックと調理道具を入れた箱を運び出せべほぼ荷降ろしはおしまい。カヌーならでは気軽さである。これがシーカヤックとなるとそうもいかない。シーカヤックは船室が細かく分かれているのに加えて荷物室の入り口が小さい。荷物を積む時にはまるでパズルのように考えながら上手に荷物を積まないと大量の荷物は積めない。また、取り出すときも口の狭いツボから取り出すように少しずつしか荷物を取り出すことは出来ない。気軽さで言えば、カヌーに軍配が上がる。しかしながら、岸まではるか遠い場所を行くならばひっくり返っても再び乗り込みやすいシーカヤックの方が圧倒的に安全である。カヌーとカヤックには一長一短があるので状況によって使い分ける必要がある。
すっかり荷物を下ろし終え、テントを張る。テントはノースフェースのロードランナー3人用。友人がアウトドアショップの懸賞て当てたものを譲ってもらった。子供が3歳、4歳なので3人用でちょうどよい。もっと大きな物を買えば長く使えるが、アウトドア用品って実はあまり長く使わない。人間の技術の進歩は凄まじく、次から次へと新しい製品が出てくる。特に携帯電話をはじめとする電子機器はその度合が凄まじいのは誰でもご存知であろう。昨日の製品が今日は数割引で悔しい思いをしたのは僕だけでは無いはずだ。アウトドア用品も例外では無い。現在のピッケルやアイゼンは驚くほど軽くなり。寝袋の下に敷くマットでさえ軽量化が著しく向上している。そのうち現地まで飛んで行ってくれるテントまで出かねない勢いである。「一生もの」という言葉は広告業界が作り出した消費者にものを買わせるための言葉なので注意が必要だ。「一生もの」なんてものは産まれた時のへその緒一つで十分である。しかも、現在、世の中の物が安くなっている。古いものはバンバン捨てるべきである。そして便利な新しいものに切り替えるべきである。こうしてどちらにせよ。誰もが広告業界に踊らされて生きていくのである。
とにかくテントを張った。下は岩なのでペグが全く入らない。夜は家族全員が寝るのでどんな強風が吹いてもテントが飛んで行く事は無い。テントが風で飛ばないようにテント内部の四隅になるべく重い荷物を置いた。
時間はすでに4時。10月の終わりなので6時すぎには太陽が沈む。太陽が沈むまでに夕食を済ませなければならない。湖に近い位置にコールマンのツーバーナーをセットしキッチンを作る。初日は保存の効かない食材を中心にメニューを考えた。アメリカの砂漠といえば・・・・・何も出てこないですよね?アメリカ内陸部にいつ来ても感じるのは食生活の貧しさである。ラスベガスの高級レストランに行けばいくらでも充実した食生活が送れるかも知れない。ここで言う食生活とはそういうものとは違う。庶民レベルでの話だ。アメリカのスーパーマーケットに入るとその大きさに圧倒される。ズラリと並んだ缶詰、ジュース、冷凍食品に圧倒されるが、その一方野菜などの青果物の種類の少なさに圧倒される。特に魚類は一切期待してはならない。肉コーナーが魚コーナーを侵略し、お!鯛か?と思えばティラピアの切り身、それと色の変わり初めたマグロ君がわずかに健闘してるのみである。ここはアリゾナだ、文句ある奴はそこにマルちゃんのインスタントラーメン、チキン味24個入りが一箱あるからそれ喰ってろ!というインスタントバンザイ態度が丸出しである。昆布でダシを取って味噌を煮立てないように溶かすなんて繊細さは当たり前に無いのだが、コレにお湯入れればそれだけでウマイぜ!とか、味付き調理済冷凍手羽先10キロ千円どうだ!という雰囲気に満ちている。こうなるとその雰囲気に飲まれ、「それじゃ、今日はでっかいステーキでも焼くか!豪快にな!はっはっは!」と、いうことになり、初日の夕食はステーキに決まった。ステーキは炭火で焼くことにしてそれ以外の付け合せなどを未だ強烈な太陽の光を浴びながら調理し始めた。

僕らのキャンプサイトは細いフィヨルドのような入江の入り口付近にあるため、モーターボートを見かける事はあまりなかったが、小型の釣り船やジェットスキーが時折目の前を通り過ぎていった。太陽が地平線に近づくにつれて船の行き来も少なくなってきた。太陽が完全に沈むとテントから少し離れた場所で火を起こす。砂漠なので薪は極端に乾燥し、新聞紙一枚で簡単に大木に火がつく。火を囲んで家族だんらんの時を過ごす。夕日が残すピンク色の空が次第に濃紺に侵略されていく。空全体が濃紺に染まると共に無数の星が瞬き始める。焚き火と星以外に一切光のない世界。空は星の明かりが空を支配し、地上の僕らを照らす焚き火はその光が安定せず、ゆらゆらと足元を舐めるように照らす。宇宙からの光に圧倒されながら焚き火の明かりをコントロールしていると、なんだが分からないが「地上に生きている」と感じることが出来る。今日の、明日の楽しみの為に小さな明かりを灯して短い夜の楽しみを終え、食事を済ますとさっさとテントに入った。

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2012年11月22日木曜日

レイクパウエル 4

週末のパーティー会場と化しているビーチを後にして目的地、ワーウィープ湾から北に伸びる大きな入江を目指した。爆音で音楽を楽しむ若者のグループを湖面から眺めながらビーチ沿いに漕ぎ進む。ビーチにはジェットスキーが頻繁に出入りし、ジェットスキーが作る波が僕らのカヌーを軽く揺らす。ビーチ沿いに北に向かう。 
目的のキャンプ地は出発地点の対岸にある。対岸に一番近い地点を目指して、湖岸沿いにカヌーを進めた。 
出発地点のビーチからは頻繁にジェットスキーが出入りする。ジェットスキーやモーターボートを楽しむ人々たちは老若男女関わらず、僕らのカヌー近くを通り過ぎる時には速度を落とし波が立たないように気を使ってくれる。湖遊びの常識がまるで交通ルールのように浸透しているのに感心する。 
それにしてもアメリカ人はモーターが好きだ。レイクパウエルは水上のモータースポーツのメッカでもある。モータースポーツといっても規制が細かく決まっているヨーロッパ発祥のF1のような上品なものではなく。ただただ、モンスターエンジンを積んで爆走するのがいいようである。エンジンはデカければデカイほど偉い。エンジン音も同じ。そして何にでもエンジンを付けてしまう。前に走るものには何でもエンジンを付ける。スケートボードはもちろん、スニーカーにも付けてしまう。そのうちベビーカーにもエンジンを付けるに違いない。 最後のベビーカーは冗談で書いたが、本当にあるかもしれないのがアメリカだ。
ワーウィープ湾にはローンロックと呼ばれる巨大な岩山が犬歯のように湖から突き出し、一周約600メートルほどある巨石は不気味とも言える存在感を放っている。高さは10階建てのビル以上の高さがあり、下の部分3分の1は白っぽく変色している。かつてこの湖が満水だった頃には白く変色した部分は全て水の下に沈んでいた。現在レイクパウエルの水位は年々下がり続けているらしい。下流にあるラスベガス、ロサンジェルスの人口増加に伴い水が不足し、カルフォルニア州では水源確保が深刻な問題になっている。 
湖岸を漕いて最も対岸に近いと思われる場所を見つけて湖を横断する。クラークの孫、ブライセンが一度カヤックで渡ったことがあり、聞くとほんの20分ぐらいだったという。それでも湖岸から離れるのは緊張した。湖岸から離れ、ウエイクボードを引っ張るボートに怯えながら全力で対岸まで漕ぐとたったの15分で対岸に着いた。 

目的の入江の入り口は意外と大きかった。事前に地図を入手して調べてきたが、この地図が全く役にたたない。かつてこの湖が満水だった頃に作られてた地図は湖岸線が全く異なっており。島が半島になり、多くの入り組んだ入江はなくなっていた。その代わり新しい入江が複雑に出来上がっていた。
今回ナビゲーションに最も役にたったのはiphoneだった。電話会社の地図では湖全体が通話エリア内だったが実際にはほとんど場所が微弱な電波しか捉えることができないか、もしくは全く通じない。それを見越してアイフォーンに今回漕ぎそうなエリアを全てダウンロードしておいた。アイフォーンのGPSは実に優秀で体感数メートルの誤差で自分のいる位置を示してくれた。グーグルのマップと合わせて使うと最強である。アウトドア-ショップに売っているGPSのクオリティーが馬鹿らしい程低く感じる。水位によって激しく変わるレイクパウエルの湖岸線もグーグルの地図が最も正確だった。紙媒体は手に馴染み慣れ親しんでいるが、情報の速さでデジタルにはかなわない。
バックカントリーに入るに際して様々な意見がある。ある人はアイフォーンはもちろん携帯電話を持ち込むのは邪道だという超ハードコアな意見もあれば、携帯は緊急時対策でOKである、しかしながらGPSはアウト、コンパスを使いなさいという意見まで様々だ。
バックカントリートリップはゲームだ。最新のギアーに限らず、持って行く物を制限すればするほど難易度が高いゲームになる。エベレストの無酸素然りだ。
今回の旅を最も困難にしているのは子供が一緒であるということだ。チャレンジは許されない。二重三重のセキュリティーを用意しなければならない。いかにバックカントリートリップを安全に楽しむかを優先したので、ハイテクギアに遠慮無く頼り、考え得る中でも最も安全を重視した装備で臨んだ。
出発が午後だったので、早めにキャンプ地を決めることにする。キャンプ地の条件は、周りに誰も居なく、ビーチがあり、テントを張る平らな場所があることだ。そんな条件の場所はなかなか無いだろうと複雑な湖岸にそってカヌーを漕ぐと間もなく良さそうな場所が見つかった。「もっといい場所があるはずだ。」と更に良い場所を探し、結局見つからなくて時間だけを無駄にするというミスを過去何度も繰り返してきたのでファーストインプレッションを信じてそこにキャンプを張ることにした。
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絶景キャンプの紹介頑張ります。


2012年11月12日月曜日

レイクパウエル 3


到着したレイクパウエル湖畔はレイブのパーティー会場のようになっていた。ウーハーを積んだ車が大音量で重低音を響かせている。若者達は4輪バギーで走り回り、ジェットスキーが爆音を立てて鏡のような湖面を切り裂きながら猛スピードで突き進んでいる。 
「おい、大丈夫か?これ。」 
僕はウィルダネスを期待していた。本当にこの湖で大自然を満喫出来るのだろうか。 
カミさんに問いかけようとした時にはすでに折りたたみ椅子を出してリゾート気分を楽しもうとしている。子供たちを水着に着替えさせ、日傘を出し、到着5分後にはビーチの雰囲気にすっかり溶けこんでいた。 
僕は重いカヌーを車から降ろし、食料をキャンプ地用と行動中に分けてパッキング。予備のパドルを確認。3泊4日分の装備をしっかり確認し始めた。 
装備は最小限に抑えなければならない。バックカントリーに入るには荷物を最小限に抑えるべきだというのが僕の持論だ。最小限でありながら何か事故があった時には必要な物は全て揃えておかなければならない。 
今回の旅の装備を記しておく。 

・住居 
テント 
テントマット各一枚 
寝袋 
ヘッドランプ各一つ 

・食事 
コールマンツーバーナー 
鍋大小2つ 
フライパン 
スプーン・フォーク各一セット 
ナイフ 
ライター数個 
塩・故障・醤油 
朝食3日分 インスラントラーメン 
昼食3日分 サンドウィッチの材料 
夜食3日分 初日豪華にステーキ、レトルトのカレー、パスタの材料 

・その他必要装備 
トング 
ランタン 
ファーストエイドキット 
着替え各2組と雨具と防寒着 
船修理キット 

以上の装備があればバックカントリーで生きて行く事が出来る。むしろ無駄をすっかり省いた生活は気持ちいいぐらいだ。自動的に我が家では2ヶ月ぐらいインフラが止まっても食料さえあれば全く問題なく生活出来る術を家族揃って身に着けている。 
しかし、最低限の生活は動物の生活だ。人間は「社会的動物である」と言ったのは誰か忘れたが有名なエライ人だ。(ケインズだっけ?)生命維持の装備だけでは人間は楽しめない。そこで贅沢品をいくつか持って行くことになる。 

・贅沢品 
かみさん:数冊の本だけ 
幼児二人:絵本6冊、i-pad(車に置いていくのが不安なのでやむを得ず)、クラークの所からもらってきたぬいぐるみ4つ(一つ一つがでかい!オーストラリアのウォンバットぐらいある) 
僕:本、iphone、そして、ビール350缶36本、 


僕は子供達が巨大なぬいぐるみを持っていくのに難色を示し、カミさんがバスタオル一枚、下着一枚多く持って行くのにもさえうるさく意見した。しかし、 
「あなたのビールに比べれば・・・」 
の一言で一刀両断。僕の「装備は最小限に」というモットーはすっかり崩れ去るのであった。確かに妻の下着一枚なんてビール36缶に比べれば羽毛のような重さである。反論は絶対に不可能である。 
カヌーというのは実に優秀でかなりの積載量がある。また、シーカヤックと違ってトラックの荷台に荷物を載せるようにガンガン考えなしで積みこむことが可能だ。 
持っていく道具をストイックに絞り込む必要がある冬山の縦走とは違い、大量の荷物が必要になる家族全員で文明の届かない自然の世界を縦漕出来るのはカヌーという道具ならではの楽しみである。僕の大好きな自然の中に入っていく行為は子供が出来て以来一旦諦めなければならなかった。僕一人で行けばいいのだが、僕は僕の責任全てと楽しみたいのである。バックパッキングで山に入るのに彼女達の寝袋まで持っていくのは不可能では無いが快適で楽しい体験とは程遠い。そんなストレスを解消してくれたのがカヌーである。カナダに住んでカヌーに出会った事を心から感謝している。なにせビール36缶積んでもウィルダネスに入って行けるのだから。 

PS.エドさんゆかちゃん借りてたパドルここでも使っちゃいました。今度返しに行きます。ごめりんこ。

2012年11月10日土曜日

20121028 レイクパウエル 2


朝起きて部屋を出ると、クラークが 
「おはよう!」
と元気な挨拶をくれた。
キッチンからはいい匂いが漂ってくる。我が家の子供達はすでに起きてキッチンでエミリーの大サービスを受けていた。
「卵はどうする?」
エミリーは僕に聞いた。
「それじゃ、イージーオーバーでお願いします。」
卵の焼き方と言えばカナダに来た時にはスクランブルエッグしか分からなかった。目玉焼きはサニーサイド、これは目玉焼きが太陽を思わせるのでなんとなく分かるが、両面焼きのイージーオーバーは一体何者なのだろうか?よく考えればスクランブルエッグってももよく分からない。初めて外国で「卵はどうする?」と聞かれたときは「おー、さすが肉だけじゃなくて卵もレアとかウェルダンとか選ぶんだな。」と勘違いしたことをよく思い出す。
朝食をとった後は少しのんびりする。これから数日バックカントリーに入るので食料などの買い物も必要だ。
クラークは朝から孫の学校の送り迎えで実に忙しい。北米のベビーシッターが高額な理由がよく分かる。
クラークの孫達は人懐っこくは無いが、シャイでいてやさしく、倉庫から古いぬいぐるみや
絵本を「もう、いらないから。」といって我が家の娘達に景気よく振舞った。ありがとう。
クラークと1年ぶりに話し込んでいるうちになんと昼近くなってしまった。
「そろそろ買い物もあるから行くよ。」
「了解、何か困ったことがあればすぐに電話くれ。どこでも電話が通じるはずだから。」
たっぷり絵本をもらった子供たちと共にクラーク達に家を出発した。

とりあえずビールである。ユタで手に入れてたビールは実に根性がない。ションベンビールと馬鹿にされても仕方がない代物だ。気持よくビールを飲みたい人は絶対にユタ州でビールを買ってはならない。これは神のお告げである。モルモンの神のお告げでは酒は禁止である。
ペイジの町は人口7千人足らずの小さな町にもかかわらずアメリカで最も大きいショピングセンター、ウォルマートがある。夏は観光客で人口が数倍に膨れ上がるのである。
実になんでも売っている。たまねぎ、人参、じゃがいもなどのカレーの材料から玄関のドアやディーゼルエンジンのオイルまで揃っている。この店があれば生活に困ることはない。
食料を仕入れていると嫁が余計なものまで見はじめる。
「これは子供のクリスマスパーティーに履くのにちょうどいい。」
などと言い、ドレス用の靴を選びはじめた。こども服コーナーでは子ども達がキティーーのパジャマが欲しいと騒ぎ出し、キャラ物上着のファッションショーを始めてしまうう。我が家は僕以外全て女なので買い物に出ると目的の物に真っ直ぐに向かい、それを手に入れてさっとレジに並び素早く帰るということがまず出来ない。買い物時は女は車に閉じ込めておくに限る。さもないと、顔に塗りたくるわけのわからない薬品や原色のうんこが出そうなヤバイ色のお菓子が増えるだけである。
なんとか買い物を済ませ車を湖に向けて走らせる。

ペイジの町からレイクパウエルまでは5分足らずのドライブ。この湖はグランドキャニオンのような複雑な渓谷をダムで堰き止めて作られた人造湖である。ペイジの町はダムの建設時に工事のベースのために作られた。
湖岸線は非常に複雑に入り組んでおりその湖岸の全長はアメリカ西海岸線に匹敵する長さだ。湖は東西に長く全長300km弱だが、湖岸線は3136kmもある。ダムが建設される前はグランドキャニオンにも匹敵する美しい渓谷だったらしい。ダムが作られた理由はただ一つ、下流にあるレイクミードへの土砂の流入を防ぐためだ。
レイクミードはラスベガス近くに位置する人造湖で、アメリカ西南部への水を供給している。有名なフーバー・ダムには大規模な発電所があり、ラスベガスのきらびやかなイルミネーションのための電力を供給している。何度かフーバー・ダムを通過したことがあるが、警備は大変なもので通過するだけでもパスポートをチェックされたり車のトランクを調べられたり911直後の飛行機に乗り込む時のような物々しさなのである。

レイクパウエルのダムを通過する。レイクミードのようなものものしさは無い。それでも観光客がダム周辺で記念写真を取る姿を見かけた。
ダムを通過して再びユタ州に入る。ユタ州に入って間もなくローンロックキャンプ場に着く。
レイクパウエルとそれを取り囲む土地は「グレンキャニオン・ナショナル・リクリエーション・エリア」に指定されている。舌を噛みそうなネーミングだが、要するに「グレン渓谷国民保養地域」である。一言で言い表せる日本語は実に素晴らしい。まあ、アメリカ人にとっては「渓谷国民保養地域」なんて文字列がアインシュタインの数式よりも複雑な幾何学模様に見えることだろう。
それはそうとして、キャンプ場に着いた。
これからやっと漕ぎだすのである。

2012年11月7日水曜日

20121028 レイクパウエル 1



レイクパウエルの名前を聞いたのは確か小学生の頃だった。かなり古い映画だが「猿の惑星」というSFものの映画に撮影地に使われたのをテレビか何かで聞いたのを覚えている。アメリカ大陸に住む事になってから15年以上経ってからこの湖で遊ぶなんて、もちろん当時は考えてもいなかった。 

レイクパウエルはアメリカ南西部の砂漠地帯のコロラド川を堰き止めて作られた人造湖である。アメリカのユタ州とアリゾナ州の州境に位置し、アメリカで2番めに大きな湖だ。 
日本では考えられないが。レイクパウエル周辺では降水量よりも太陽の熱で蒸発する水分の方がはるかに多い。一番近い海から千キロ以上離れ、5月から9月までは気温が20度以下に下がることがほとんどないこの地にアメリカ中からバカンスを楽しむ人が集まって来る。 
トップシーズンには巨大な湖のいたる所に、日本の一般的な一軒家の2倍はあるボートハウスと呼ばれる巨大な船が停泊し、アメリカのミリオネアの別荘と化している。 
僕らが訪れた10月にも何隻ものボートハウスがマリーナに停泊していた。 
今回のトリップはこのレイクパウウェルでのバックカントリーカヌートリップである。 
この湖のすぐ近くにアンテロープキャニオンと呼ばれる有名な渓谷がある。赤茶けた縞模様の砂岩が時々起こるスコールによる洪水に侵食され、「コークスクリュー」と呼ばれる。美しい渓谷を作り出している。数多くのミュージックビデオやCMが撮影されているので写真などで見たことのある人も多いのではないだろうか。 
今回はそんな美しい渓谷にカヌーで入り込む事は可能だろうか。可能ならばそこには一般ツーリストには絶対に体験できない世界が広がっているはずだ。 

カナディアンロッキーに住んでいる僕らはカナダとアメリカの国境を越え3日間かけてアリゾナ州まで車で南下した。今回は6歳と3歳の娘を含む家族全員で移動したので3日かかったが、大人だけだったら2日間で移動出来る。それででも移動距離は2千キロを超えるので日本では考えられない距離である。 
カナダから南下してユタ州を過ぎるとモーターホテルの料金が安くなるのでびっくりする。アメリカでは有名な格安ホテルチェーン「モーテル6」では一家4人で一泊50ドル、日本円で4千円程度。おそらく南下すると真冬でも路上で寝泊まりできるからだろうか、外気から身を守るシェルターの価値が低いのだろう。 

途中、モンタナ州の州都「ヘレナ」とユタ州の州都「ソルトレイクシティー」でそれぞれ一泊。この時点で車の走行距離は1500キロメートル。子供達はIPADでサザエさんとちびまる子ちゃん、それとルパン三世のカリオストロの城をおそらく一生分堪能したはずである。 
レイクパウエルへの旅の途中、ソルトレイクシティーでビールを購入してモーテルで飲む。飲んでも飲んでも酔わない・・・。数本飲んだ後の心地良い眠気を誘う酩酊感が全く来ない。酔は来ないが利尿作用はしっかり働くらしくションベンばかり出るので飲むのを諦めて寝る。 
ユタ州は規律の厳しいモルモン教徒の本拠地であるので政治家もモルモン教徒が多い。ビールの缶にアルコール度数が表示されていないのではっきりしたことは分からないがおそらく体感3%程度だ。ユタ州に入る前に大量にアルコールを買っておくべきだったと後悔する。 
ソルトレイクシティーを超えて南下すると次第にハイウェイ沿いに見られたし芝科の植物が見られなくなり、その代わり砂状の土地にセージブラシが貧しく生える風景に変わる。僕らが通過するユタ州最後の町「カバブ」を過ぎると何処までも続く砂漠地帯になり、生命の息吹が一気に希薄になる。 

3日かけてレイク・パウエル湖畔の町「ペイジ」に着く頃には外は真っ暗になっていた。 
ペイジの町では去年リタイヤしたばかりの初老の友人クラークが僕らを迎えてくれた。リーバイス501がよく似合う白人の彼とは3年前セドナの近くのマイナーだが最高に過ごしやすいキャンプ場で知り合った。 
クラークは3年前、僕らの隣で一人でキャンプをしていた。嫁と僕は「きっと奥さんに先立たれたか何かで独り身に違いない。だからキャンプなんぞをして寂しさを紛らわそうとしているんだろう。」などと陰口を叩いていたのだがその真逆で、奥さんはまだリタイアしていないので忙しい。子供が4人もいてその孫の数が半端でない。孫の習い事の送り迎えやらなにやらで毎日忙しくてな大変だそうな。独り身どころかビッグファミリーの貴重な労働力なのである。クラークにとってキャンプは一人でゆっくり出来る貴重な時間なのであった。 
僕らがペイジに着いた時も孫のサッカーが終わるの迎えに行く途中で、僕とクラークはペイジの市民サッカー場で待ち合わせとなった。 
人口7千人足らずの町には立派すぎるサッカー場に思えた。2012年現在、クソすぎるアメリカドルの価値に到底似合わない規模である。鮮やかな緑色のグランドを煌々と明るいライトが照らす。 
砂漠にある町の青い芝生が眩しいサッカー場に目を凝らすと子供達の7割ぐらいがインディアンである。この町はアメリカ最大のインディアン「ナバホ族」居留地に隣接している。子供達を迎えに来ている親たちももちろん圧倒的にネイティブが多い。 
クラークの孫、ブライセンをピックアップしてクラーク宅に向かい。一晩お世話になる事となる。 
クラークの奥さんは黒人だ。南アフリカ出身の彼女はイギリスの植民地出身らしく「世の中全て苦渋に満ちている」という感じの冗談を交えて会話をする。結婚当時はアメリカ国内の黒人に対する差別がひどく、クラークも結婚を決意した時には両親に結婚相手が黒人だと告げる事が出来なかったそうだ。クラークの両親も教師だったそうで、教師相手に結婚相手が黒人だと告げられないアメリカの古いダークな時代が感じられた。 
救急救命士であるクラークの息子さんは仕事でペイジの町を離れてい 
てしばらく帰ってこない。時計を見るとすでに夜の9時を過ぎていた。僕らはキッチンを借りて簡単な食事を作り。快適なベッドでの睡眠をゴチになった。 
明日はいよいよ砂漠のオアシス「レイクパエル」カヌーを浮かべる日だ。3日乾いた空気に晒されたカヌーにたっぷり水に浸かっておう。 
砂漠の赤い岩に囲まれたキャニオンを想像しながら目を閉じた。
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