砂漠の朝はテントから出た瞬間、身体全体をリフレッシュさせてくれる。海から千キロ以上離れた乾燥した大地では一日の気温差が半端ではない。朝に10度以下だった気温が午後の2時を過ぎると30度近く上がることは珍しくない。
砂漠の夜明けでは頭から熱が放射され、寝袋の中でモヤモヤしていた脳が叩き起こされる。太陽が岩の間から東の岩山を照らし始めると、あっという間に僕の足元まで光がやってくる。足元を照らした太陽は長く伸びた僕の影を映し出し、一気に身体を暖める。そこにクラークの入れたインスタントコーヒーを喉に流し込むと今日一日の始まりだ。
キャンプ場全体が目覚め出した。朝早く起きだしたキャンパー達はそそくさと荷物をまとめて車に乗り込みキャンプ場を去って行く。ほぼ満員のキャンプ場の人々は一体どこを目指しているのだろうか。答えはキャンプ場を出て行く車のダッシュボードにあった。
ダッシュボードには何か許可証のようなものが置いてある。よく見れば「ザ・ウェーブ」への許可書である。このキャンプ場の人気は「ザ・ウェーブ」に支えられていたようだ。
キャンプ道具をまとめてハイウェイに向けてダートロードを走ると沢山車が停まっているトレイルヘッドがあった。トレイルヘッドに駐車している車のダッシュボードにはキャンプ場で見かけた許可書が置いてある。どうやらここが「ザ・ウェーブ」入り口らしい。すでに駐車場には人気がなかった。
クラーク宅に着く。今日はまた、レイクパウエルのバックカントリートリップに出発する日である。クラーク宅でシャワーを浴びてゆっくりする。
今日は休日だがクラークの孫達は忙しい。小学6年生ぐらいの年になる男の子のブライセンは毎週末サッカーの試合だ。下の子エリザベスはダンス教室。送り迎えするクラークも実に忙しい。せっかくのゴツイ日産トラックもファミリーカー状態である。奥さんとはすでに離婚している子供達の父親は救急救命士で現在ナバホ族の村に出張中で帰って来ない。クラーク夫妻はこの家に無くてはならない存在である。
キャンプ生活が続いたせいか、クラーク宅で思わずゆっくりしてしまった。僕はブライセンとスケートボードを近所の教会の巨大な駐車場で楽しみ、子供達はブライセン兄妹の小さい頃のおもちゃや本を漁っていた。またカヌーに積み込む荷物が増えること間違いなしである。僕は心から巨大なぬいぐるみなどが出てこない事を願った。
バックカントリーに向けて出発である。すでに午後3時。のんびりはいつもの通りだが、真面目なアウトドアマンには怒られる時間だ。今回のトリップはまた2泊3日。レイクパウエルのアンテロープポイントという場所から漕ぎ出す。アンテロープポイントはかの有名なアンテロープ・キャニオンがレイクパウエルに続く渓谷の近くにある。
アンテロープキャニオンポイントは人気が無くひっそりとしていた。ボートをおろすランプの入り口に国立公園レンジャーの車が停まっていた。
僕らがボートランプに近づくとレンジャーの車から若いオフィサーが出てきた。
「こんにちはどちらまでですか?」
「ここから2泊カヌーで漕ぎだしてキャンプをする予定だ。」
実は明日にはこのボートランプは閉鎖になります。きょう漕ぎだしてもいいんですが、帰って来る時には水際まで車は入れません。」
「了解!教えてくれてありがとう。」
本来はクルーザーなどを下ろすためにある、水面下まで続くコンクリートの傾斜した道を水際まで車を進めた。
カッコ悪いファミリーバンから日焼けで変色した赤いカヌーを降ろし、水面に浮かべた。かみさんは子供達にライフジャケットを付けて、細々とした荷物を車から降ろす。僕はカミさんが下ろした荷物をカヌーに積み込む。
コクピット席と子供達の乗るスペースを快適にしつらえると出発の準備はOKだ。カミさんの本OK、俺の酒OK、子供たちのおもちゃOK!バケーションは残り少ない。一泊二日のウィルダネスへの旅の始まりだ。
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