14時00分
宿に帰るとタクともっちゃんはさすがに目を覚まして部屋でくつろいでいた。
「バックカントリー行くぞ、ただし、今から15分以内で準備が出来るならだ。」
「行きます。行きます。」
14時30分
この時間にバックカントリーに出かける事が出来る場所を見つけられたのはラッキーなのかどうなのか?この時間に出発は山の常識からいったらありえない。でもやっちまった。日没は19時ぐらい。バックカントリーの装備を身につけ車に乗り込んでティトンパスに向けて出発した。
15時45分
ティトンパスの頂上。途中峠から降りてきた仲間をピックアップする場所を確認してから峠に上がったので結構時間がかかる。
峠の頂上は午後の4時近いのにもかかわらずバックカントリーを楽しむ人々の車でいっぱいだ。僕は車を停めて僕以外のメンバーをに下ろした。途中にあるトラップなど僕が集めた全ての情報を皆に伝えた。後は何とかしてくれ。
駐車場に山から降りてきたスキーヤーがいた。年齢は50半ば、ジャクソンホールのスキーヤーは年齢層が高い。
「シーバスに入りたいんだけど、帰り道は道路への出口は簡単に分かりますか?初めて来たもので教えて欲しいいんですが。」
スキーヤーは僕らを見て少し戸惑いながら話し始めた。
「出口は簡単だよ。迷うことはないだろう。でも君たちはバックカントリーギアとか持っている?全く装備のない人を山の中に案内することになるのはちょっと嫌だから・・・」
「ビーコンもシャベルも全部持っています。経験もあるので大丈夫です。」
「それでは・・・・」
と、いうことで貴重な話が聞けた
「尾根を下ると必ず旧道に出る。旧道は明らかに人工的物なので見逃すことはないと思う。旧道を見逃してさらに下の沢まで下ってしまったらちょっと登り返しが大変だ。とにかく旧道を見つけたら旧道をそのまま下ること。そうすればまず大丈夫。グッドラック。」
彼はおんぼろのトラックに乗って峠を走り去った。
「あの人、一人でしたよね?ビーコンとか言ってたけど、一人はないですよね。」
と、タク。確かに。
僕を残した大人たちは駐車上から吹雪の中、駐車場脇の高い雪の壁の向こうに消えていった。
16時
みんなのピックアップポイントで子供達と雪だるまを作ったり、足し算の勉強をしながら過ごす。意外と有意義な時間が楽しめた。カナダは寒いので雪がサラサラで固まらない。しかし、ここの雪はある程度湿気を含んでいるので好きな形に加工できる。しばし子供と楽しい時間を過ごす。
17時
ジャクソンホールのローカル新聞をペラペラとめくっているとこんな記事が。
・・・今年は雪不足でスキーには最悪な年だ。今の時点で積雪が先シーズンに比べて50インチ少ない。今後の積雪に期待・・・・・
何年もジャクソンホール行を夢見て実現したトリップだったが来る年を間違えたようだ。
その時、無線機からユキヨの声が聞こえてきた。
「もうすぐ着きま~す。」
「はいはい、雪はどうですか~」
「バッフバフで~す!」
興奮した声が無線機から聞こえてきた。
連絡が入って10分ほどで3人が駐車場に姿を現した。
「やばい、パウダーっす。」
「すごいよ~!」
とにかく雪は良かったらしい。
「俺も行く時間あるかな。」
「どうですかね。」
「調べたけど日没は19時。」
「じゃ、行けると思いますよ。迷うところなかったし。」
今日はほぼ100%僕だけが滑れないと思っていたので目の前の雪に感謝した。
17時30分
再びティトンパス。風が強い。足元にはくるぶしまでの雪。
ユキヨが運転する車に別れを告げてバックカントリーに入る。
ティトンパスの駐車場から少し歩くとバックカントリーの入り口に何かある。近づいて見るとビーコンのチェック機だ。ビーコンを持った人が一人ずつ近づくとビーコンがきちんと作動しているかどうかマルバツのデジタル表示で示される。
こんなものが設置されているということはバックカントリーが一部の特別な人種の遊びではなくかなり大衆的な遊びである証拠だ。僕はこれがニセコや白馬辺りにもあってもいいんじゃないかと考えた。
ジャクソンタウンの山屋の店員の話では
「歩いて10分ぐらいで電波塔が見える。その電波塔を過ぎた辺りから滑り出すといい。電波塔までは10分ぐらいだ。」
と、聞いていたが、結局電波塔まで30分かかった。
18時00分
電波塔を過ぎて滑る準備をしていると、二人組みのスノーボーダーが追いついて来た。僕はバックカントリーの常識では考えられない時間にここにいると思っていたのでちょっとビックリ。
「どこからですか。」
タクが
「日本からです。」
と答えた。お前はカナダからだろうが、と僕は思ったが、タクのナショナリズムはまだ日本がベースらしい。
「コンニチハ!アリガト!」
と、アメリカ人。アメリカ人はアメリカにいる限り非常に人懐っこい奴が多い。彼らは僕らよりさらに奥のピークを目指していった。もう2時間で日没なんですけど。
18時10分
トラックの全く入っていない雪面に思いっきり突っ込んだ。オーバーヘッドのスプレーが上がる。斜度も申し分ない。タクともっちゃんの奇声が聞こえてくる。昨日までの雪不足のストレスを一気に解消。グランドティトンの深雪を初めて味あわせてもらった。
バックカントリーは今回のトリップの予定には入っていなかった。たった一本だが、今回のトリップを充実したものに変えてくれた一本だ。今度来るときはしっかり調べてガッツリ、ティトンパスをやっつけようと決心。
吹雪は容赦なく僕の頬を叩く。明日のスキー場は期待が持てそうだ。
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