夕日が沈むまで岩の上でビールを飲む。思考が薄くなり、心地良い気分で夕日が岩の間に沈んでいく様子を眺める。沈んだ夕日の光が岩の間から漏れる頃になると自分の頭上を越えて反対側は黒に近いブルーが広がる。濃いブルーの中には星がまたたき、星の数が徐々に増えていく。星が空全体を覆う頃には明日を目指す太陽は完全にその光を失い、闇に星が繰り出す光の点が隙間なく空を覆い尽くす。
アルコールに侵された頭脳で宇宙を感じたところでテントに戻る。テントは本を読む嫁のヘッドランプで弱い灯台になっていた。その弱い光を頼りにテントのファスナーを開けて一言も言葉を発せず寝袋で闇の星を頭に浮かべて眠りに入った。
毎日やってくる朝を迎える。 相変わらずテントが太陽に暖められて体温上昇にて目が覚める。子供達は汗をびっしょりかいているのに意地になっているかのように目を覚まさない。テントの入口のファスナーを開けると一気に新しく冷たい空気がテント内に流れ込み心地良い。
いつものように嫁のコーヒーの為にお湯を沸かす。子供達の朝食を作る。自分の腹に食料を入れて心身共に落ち着く。キャンプ生活に慣れると一定のリズムが出来る。まるで高校時代学校に行く平日の朝のように朝起きてから学校に着くまでのルーティーンのように身体に一連の作業が身についてくる。
朝の儀式を終え、ジリジリと刺す太陽の元で子供達と遊ぶ。子供達と充実した時間を過ごした・・・なんて感じることは僕には絶対にない。いつも仕方なく遊ぶ。壮大な景色に見とれてゆっくり景色を眺めて時を過ごしたい。太陽で暖められた間もなく正午の暖められた空気に触れて誰にも邪魔されずに長編小説を読みたい。午後の灼熱の太陽の下、適当な高さの崖を見つけて思い切り冷たい湖面に飛び込んでみたい。やりたいことはいっぱいあるが子供達は僕に執拗にからんでくる。仕方なしに全て諦め子供達の相手をする。何度も何度も同じギャグをやらされ心からうんざりする。
思い返せば、長女が6ヶ月を迎えた頃には夫婦一緒に座って食事をした記憶がない。長女は起きている間は立って抱いていないと泣き続ける赤ちゃんだった。今思い返すとあの苦労も良い想い出だが当時は本当に大変だった。大変だったが今思い返せば本当に心から懐かしい。そんな経験があるから今でも仕方なく心底自分のやりたいことを諦め自分の子供と遊ぶ。気の長い期待が将来最高の楽しみに変わるのを楽しむセンスは20代の頃には絶対なかった感覚である。
子供達のしつこい要求をいい加減振り切り早めの昼食を済ませる。アンテロープキャニオンに向けて出発だ。
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